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第44回 プライバシー侵害の救済方法(6)

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回は、プライバシー侵害の救済について、損害賠償請求以外の方法に関する具体的事案を見ていきます。今回は謝罪広告等の回復処分が請求された事案を取り扱います。

1モデル小説におけるプライバシー侵害について、モデルとされた個人が、損害賠償に加えて、謝罪広告を求めた事案(「宴のあと」事件。東京地判昭39・9・28判時385-12)

原告は、損害の填補のための慰謝料だけでなく、回復処分として謝罪広告の掲載を求めました。これに対し裁判所は、原告に対するプライバシー侵害を認めたうえで、慰謝料請求については一部認容しました(請求額:100万円、認容額:80万円)。しかし、謝罪広告の請求については「原告は本件損害の賠償請求として、謝罪広告および金銭による損害賠償の二つを請求するけれども、私生活(私事)がみだりに公開された場合に、それが公開されなかった状態つまり原状に回復させるということは、不可能なことであり名誉の毀損、信用の低下を理由とするものでない以上は、民法723条による謝罪広告等は請求し得ないものと解するのが正当」として請求を斥けました(同事件の最高裁判決(最判昭45・12・18判時619-53)も同様の判断)。

裁判所は、プライバシー侵害について、謝罪広告の請求がなされた事案の多数において請求を斥ける判断をしています。

2消費者金融会社の会長が入院中の病院の廊下で車椅子での移動中、本人の同意なしに撮影された写真が雑誌に掲載されたことについて、プライバシー侵害が認められた事案(東京地判平2・5・22判時1357-93。前回コラムの事案3の事件)

前回ご紹介した事案3において、裁判所は原告に対するプライバシー侵害を認め、損害賠償については200万円の支払を命じました。謝罪広告の請求についても、「雑誌に公表することが法律上本来許されないものであることを読者に認識させる方法を採用すれば、読者の本件写真に対する認識の仕方を変えることにより本件写真の社会的な意味を質的に変容させ、もって本件肖像権及びプライバシーの侵害の原因を相当程度減少させることができるものというべきである。そして、そうすることによって、将来の侵害ばかりでなく、過去の侵害による原告の精神的な損害をも一定程度軽減することができるものと考えられる。このようにみてくると、本件においては、民法723条を類推適用して被告らに謝罪広告を命ずるのが、損害の原状回復の方法として、有効、適切、かつ、合理的であり、また公平の理念にも合致するというべき」として、これを認める判断をしました。

上で述べたとおり、プライバシー侵害が認められた場合でも、回復処分としての謝罪広告の請求は認められにくい傾向がありますが、これが認められた事案として注目されます。

3離婚に関するテレビ報道によりプライバシーを侵害された者が、放送法に基づき訂正放送を求めたが、裁判所が認めなかった事案(最判平16・11・25民集58-8-2326)

原審(東京高判平13・7・18判時1761-55)は、「右の規定(註:本件当時の放送法4条1項「放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人から、放送のあった日から三か月以内に請求があったときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が真実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から二日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消しの放送をしなければならない」)は、放送事業者の放送により権利を侵害された者は、私法上の権利として、その放送のあった日から三か月以内にその放送事業者に対して訂正の放送をすることを求めることができることを規定したものと解するのが相当」と述べて、訂正放送の請求を認めました。

しかし最高裁は、「同項は、真実でない事項の放送がされた場合において、放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないと解するのが相当」と述べて、請求を斥けました。

ポイント

プライバシー侵害に対する救済方法として、原告が謝罪広告を求めた事案では、裁判所は多数の事件においてこれを斥けている。
プライバシー侵害に対する謝罪広告が求められた事案について、僅かではあるが、裁判所が認めている事案もある。
プライバシーを侵害された者が放送法の規定に基づいて訂正放送を求めた事案について、最高裁は、高裁の判断を覆して請求権を認めず、請求を斥ける判断をした。

次回も、プライバシー侵害に関する救済手段のうち、損害賠償請求以外の方法に関する具体的事案を見ていく予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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