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第42回 プライバシー侵害の救済方法(4)

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回も、プライバシー侵害の救済について、損害賠償の金額等が争いとなった具体的事案を見ていきます。今回は、私的情報の違法入手や違法開示に関する事案を取り扱います。

1行政書士が本人に無断で住民票及び戸籍謄本を入手することによりプライバシーを侵害した事案(東京地判平8・11・18判時1607-80)

被告の行政書士は、行政書士としての職務上したもので、正当と判断される依頼に基づくと主張して争いましたが、裁判所は、「被告は使用目的について『相続(分割、裁判所)』と記載して戸籍謄本等の交付請求しているが、原告の相続に関して被告が個人的な利害を有している事情は全く窺うことができず、右交付請求は、虚偽の使用目的によるか、又は原告の相続に関して利害関係を有する他人の依頼に基づいてされたかのいずれか」「虚偽の使用目的を示してする戸籍謄本等の取得は、真の目的が明らかにされ、それが正当なものと認められない限り、正当な理由がなくしてされたと解して妨げなく、当該戸籍に記載された者の個人情報を違法に取得するものとして不法行為を構成する。」と述べたうえで、「被告による正当な理由のない戸籍謄本等の取得により、個人的な情報を知られたことによる精神的苦痛(これ以外に損害はない。)を被っており、これを慰謝するに足りる賠償額は、50万円をもって相当」と判断しました(請求額:100万円)。

裁判所は、損害額の判断については、具体的な理由を示していませんが、被告が、依頼者を含め、戸籍謄本等の請求の理由を明らかにせず、原告の利益侵害の回復を妨げた点を重視してプライバシー侵害事案としてはかなり高額の慰謝料を認めたものと推測されます。

2電話の加入者がNTTに対し電話帳に氏名、電話番号、住所を掲載しないように依頼したにもかかわらず掲載されたことにつき、プライバシー侵害として損害賠償が認められた事案(東京地判平10・1・21判タ1195-183)

被告は、①原告の氏名、電話番号及び住所はプライバシーとして法的に保護されているものではない、②原告が蒙ったと主張している精神的損害は非常に軽度であると考えられること等の事情に照らせば、被告の行為は違法性を欠く等と主張して争いましたが、裁判所は、氏名、電話番号等のプライバシー該当性を肯定したうえで、「原告の電話番号等の(中略)掲載は原告の明示の意思に反したものであること、(中略)原告の氏名(女性の名前)の電話帳への掲載により、家庭に男性がいないことを不特定者に知られるのではないかとの不安を原告が抱く(中略)のも無理からぬことと思われ、他方で、(中略)原告の私生活上の平穏が具体的に害されたとの事情は窺われないこと、被告に害意ないし故意は存しなかったこと、(中略)被告は原告に対し対応策を示し、かつ、相当な経費及び労力を掛けて一応の対策を講じたこと、(中略)その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、被告が原告の蒙った精神的苦痛に対して支払うべき慰謝料額は10万円とするのが相当」と判断しました(請求額:300万円)。

裁判所が慰謝料の判断に当たり、様々な事情を考慮している点、被告側の事情も考慮して慰謝料を判断している点が注目されます。

3市民窓口課に勤務していた市の臨時職員が戸籍原簿及び除籍原簿の記載事項を漏洩した事案(京都地判平20・3・25判時2011-134)

原告は、当該職員および市の双方を被告として損害賠償を求めたところ、裁判所は、市への請求については、職員の行為は職務の執行とは関係がなく職務執行要件を満たさないとして斥けました。

他方、職員個人に対する請求については、「本件漏洩行為が原告のプライバシーを侵害することは明らかであるから、原告は、被告に対して、プライバシー侵害そのものにかかる精神的苦痛についての慰謝料を請求することができる」としたうえで、「本件に現れた諸事情を考慮すると、プライバシー侵害そのものにかかる原告の精神的苦痛を慰謝するには5万円が相当」と判断しました(請求額:300万円)。

上記(2)の事案も含め、私的情報の違法開示事案では、私的情報流出事案と同様に、高額な慰謝料は認められにくい傾向があるように思われます。

ポイント

行政書士が本人に無断で住民票及び戸籍謄本を入手したことにより、50万円の慰謝料が認められた事案がある。
氏名、電話番号等の電話帳への無断掲載に関し、裁判所が、双方にかかる様々な事情を挙げたうえで、10万円の慰謝料を認めた事案がある。
市の臨時職員が戸籍原簿及び除籍原簿の記載事項を漏洩したことについて、5万円の慰謝料が認められた事案がある。
私的情報の違法開示事案では、私的情報流出事案と同様、高額な慰謝料は認められにくい傾向があると思われる。

次回も引き続き、プライバシー侵害に対する救済について、具体的事案に即して見ていく予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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