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第29回 名誉毀損の救済方法(8)

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回からは、インターネット上の名誉毀損に特徴的な救済方法を見ていきます。今回は、削除請求を取り上げます。

1削除請求の概要

インターネットの普及により、インターネット上の掲示板やブログ、SNS等において名誉を毀損する情報発信や投稿(書き込み)等が行われるケースが増えています。

このようなインターネットによる名誉毀損では、情報が短時間のうちに不特定多数に拡散する可能性が高く、損害賠償請求によって事後的な被害回復を図ることでは、名誉の回復には不十分であることも多いと考えられます。

他方、書籍における出版差止めのような手段は想定できないことから、実効的な救済を図る手段が必要となります。そこで、インターネットによる名誉毀損において多く用いられる手段として、削除請求があります。

削除請求は、情報発信者に対して行うのが自然ですが、インターネット上では匿名の情報発信も容易であるため、発信者が特定できない場合も珍しくありません。そこで、投稿がされたインターネット掲示板の管理者等に対して削除請求を行うことも多く行われています。

2発信者に対する削除請求

(1)削除請求の根拠
インターネット上の名誉毀損に対しては、名誉等の人格権に基づき、人格権侵害行為の排除を求める妨害排除請求が可能と考えられています。既に取り上げた書籍について出版の差止めを求めることも、妨害排除請求の一つの態様です。インターネット上に発信された情報(投稿等)の削除も、人格権に基づく妨害排除請求として認められています。

(2)削除請求の要件
削除請求が認められる要件について、裁判例は、投稿等によって被害者が被る不利益と、情報の削除によって発信者が被る不利益とを比較衡量して判断する傾向にあります。

比較衡量においては、名誉毀損行為の悪質性(私怨に基づく誹謗・中傷かどうか等)や被害の程度等が考慮されることになります。

3掲示板管理者等に対する削除請求

(1)削除請求の根拠
インターネット上では匿名の情報発信も容易であることから、被害者が発信者を特定することが困難なことが多くあります。また、掲示板の構造等によっては、情報発信者が発信済みの情報(投稿等)を自ら削除することができない場合もあります。そこで、情報発信者ではなく、掲示板の管理者等に対して削除請求を行うことが考えられます。
しかしながら、管理者が自ら情報の発信(投稿等)を行ったわけではないことから、管理者に対して、人格権に基づく妨害排除請求を行うことは、原則としてできないとされています。そこで、管理者に削除義務が認められる場合の根拠とされるのは、条理上の削除義務です。

(2)削除請求の要件
どのような場合に情報発信者ではない掲示板の管理者等に条理上の削除義務が認められるかについて、裁判所は、事案に応じて個別に判断する傾向にあります(東京地判平11・9・24判時1707-139等)。

上記の裁判例では、「名誉毀損行為は、犯罪行為であり、私法上も違法な行為ではあるが、基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事者であり、当事者以外の一般人の利益を侵害するおそれも少なく、管理者においては当該文書が名誉毀損に当たるかどうかの判断も困難なことが多いものである。このような点を考慮すると、加害者でも被害者でもないネットワーク管理者に対して、名誉毀損行為の被害者に被害が発生することを防止すべき私法上の義務を負わせることは、原則として適当ではない」としたうえで、「ネットワークの管理者が名誉毀損文書が発信されていることを現実に発生した事実であると認識した場合においても、右発信を妨げるべき義務を被害者に対する関係においても負うのは、名誉毀損文書に該当すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度も甚大であることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られる」と述べ、削除義務の要件を厳格に判断しています。

他方、インターネット上の匿名掲示板である「2ちゃんねる」に関する事案では、「遅くとも本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がなされたことを知り、又は、知り得た場合には、直ちに削除するなどの措置を講ずべき条理上の義務を負っている」(東京地判平14・6・26判時1810-78)として、緩やかに判断された裁判例もあります。

裁判所は、条理上の義務について、掲示板の性質等を個別に検討して判断しているものと考えられます。

ポイント

インターネット上の名誉毀損に関する救済手段としては、一般的な損害賠償請求のほか、投稿等の削除を求める削除請求もある。
名誉を毀損する情報の発信者に対しては、人格権に基づく妨害排除請求として、投稿の削除を請求することができる。
名誉を毀損する情報が投稿された掲示板の管理者等に対しては、条理上の義務に基づき、投稿の削除を請求することができる場合がある。

次回も、今回に引き続き、削除請求を取り扱い、削除請求の具体的方法を見ていく予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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