第54回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(9)


回まで、住宅(不動産)の売買に関わる改正について見てきました。今回からはテーマを変えて、住宅(不動産)の賃貸借に関わる改正について見ていきます。初回の今回は、賃貸借に関わる改正の概要を取り扱います。



賃貸借契約成立要件に関わる規定の改正

改正前の賃貸借契約に関する規定は、その成立要件として、賃借人が賃料支払債務を負うことは定められていましたが、賃借人の目的物返還債務については、使用貸借契約に関する条文(改正前597条1項)を準用するのみで、明示的に定められていませんでした。

今回の改正により、601条に「引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約する」ことが明示的に規定されました。これは、改正前において共通の理解となっていた契約成立要件を明文化したものであり、内容面での実質的な変更はないと理解されています。

なお、本条項は任意規定とされていますので、改正で追加された部分と異なる内容を契約で定めることは妨げられません。例えば、目的物の返還について、601条では「契約が終了したとき」の返還を約するとされていますが、実務的には、契約が終了するまでの間に、双方立ち会いのもと、明け渡しを行うと定められる場合が多いと思われます。また、契約で「本物件の鍵の返還をもって明渡し(返還)とする」といった定めをすることも可能とされています。

こうした点も、改正前と実質的な変更はなく、従前の実務に影響を与えるものではないと考えられています。

(賃貸借)

第601条

賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

(参考)

改正前601条

賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

改正前597条1項

借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。



賃貸借に関する主要な改正事項

賃貸借契約に関する改正事項は多岐にわたりますが、主要な改正事項は以下のとおりです。それぞれの項目の具体的内容は次回以降に取り扱う予定です。

(1)賃貸借の存続期間・更新期間(604条)

(2)賃貸借の対抗力(605条)

(3)賃貸人たる地位の留保(605条の2第2項)

(4)賃借人による妨害排除請求権、返還請求権(605条の4)

(5)賃借人の修繕権限(607条の2)

(6)賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(611条)

(7)使用貸借の規定の準用(622条)

(8)敷金規定の新設(622条2)

(9)その他判例法理の明文化(607条の2第1項等)

このように、賃貸借契約に関する改正は多岐にわたりますが、成立要件に関する601条を含め、改正の中には、これまで判例法理や通説によって確立されていた内容を明文化したものも相当数含まれます。このような改正については、実務への影響は特に想定されませんので、改正内容ともに、実務への影響の有無を理解することが重要となります。

また、今回の改正にかかる内容を含め、任意規定については、当事者間の賃貸借契約で法の定めと異なる定めをした場合には、原則として契約が優先されます。したがって、賃貸借契約を締結する場合には、法改正の内容を十分理解することももちろん重要ですが、契約の具体的内容の確認や検討は欠かせません。



ポイント

賃貸借契約の成立要件を定める601条において、これまで明示的規定がなかった「引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約する」ことが規定された。

賃貸借契約に関しては、①賃貸借の存続期間・更新期間、②賃貸人たる地位の留保、③賃借人による妨害排除請求権、返還請求権、④賃借人の修繕権限等、多岐にわたる改正が行われた。

改正内容の中には、これまでの判例法理や通説で確立されていた内容を明文化したにとどまり、実務への影響がないものも含まれるため、改正内容とともに実務への影響の有無に留意することが重要である。



次回も、不動産賃貸借に関する改正を取り扱う予定です。

ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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