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第8回 業者のよくある主張

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回は業者のよくある主張を取り上げて、その妥当性を検討してみたいと思います。
ただし、以下の検討内容はあくまで私の個人的な見解であることをご留意ください。

建築確認が下りて完了検査も済んでいるので建物に欠陥(瑕疵)はない

建築確認とは、建築主が、建築物を建築しようとする場合、工事に着手する前に、その建築計画が建築基準関係規定に適合するものであることの確認を受け、確認済証の交付を受ける手続きです。

完了検査とは、建築主が、工事を完了したときに、建築物や敷地が建築基準関係規定に適合していることの検査を受け、検査済証の交付を受ける手続きです。

そこで、業者は、「この建物は建築確認を受けていますし、完了検査も済んでいますので安全です。欠陥(瑕疵)はありません。」と説明することがあります。業者側の代理人弁護士の主張でもたまに見かけます。これは本当でしょうか。

よく考えてみましょう。建物の欠陥(瑕疵)が問題となり、業者の瑕疵担保責任を追及する場合は、すでに建築確認が下りて工事に着手し、完了検査が済んで建物の引渡しを受けているはずです。建築確認が不要な場合でない限り、これら手続を行う必要があります。

建築確認が不要な場合とは、都市計画区域外の小規模な建築物等のように非常に限定的です。つまり、都市部の建築物であれば、通常、建築確認を受け、完了検査も受ける必要があるのです。過去に完了検査を受ける割合が少なかった時期もありますが、平成26年度の完了検査率は90%を超えています。

それにもかかわらず、欠陥住宅問題がなくならないことは周知の事実です。また、そもそも特定の条件を充たす小規模な建築物は、建築確認の審査の一部が省略されているのです。ですから、「建築確認が下りて完了検査も済んでいるので建物に欠陥(瑕疵)はない」という業者の主張は、何の根拠もない無意味な主張だと思うのです。

建築基準法令の基準には余裕があるので、違反があっても建物の安全には問題がない

耳を疑うような内容ですが、「建築基準法令は余裕をもって安全側に基準を設定しているので、多少の違反があっても建物の安全には支障がない」という説明を受けることがあります。これはどうでしょうか。

まず建物の安全とは何かを考えてみましょう。建築基準法では、第1条で、「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」と定められています。つまり、建築基準法は建物の最低の基準であり、そのため、建築基準法の基準を満たす建物は最低限の安全を備えていると考えられます。

また、住宅性能表示制度では、耐震等級、耐風等級、耐雪等級などの性能表示があり、建築基準法よりも厳しい基準を設定すれば、その分、より安全な建物を取得できます。このように、安全にはグレードがあり、一義的に決められるものではないのかもしれません。

しかし、建築基準法に違反している建物は、建物の最低基準すら満たしてないわけですから、少なくとも安全とは言い切れないでしょう。

では、建築基準法令は、安全側に余裕をもって基準を設定しているのでしょうか。これは基準の内容にもよりますが、例えば、安全率などの概念が用いられていて、その意味で余裕があるということはあります。

しかし、この余裕とは、仮定の条件をもとに基準を設定しているために安全上必要となるものです。つまり、建築する建物ごとの個別具体的な使用状況、かかる荷重、部材のばらつきなどを予め完全に想定して基準を設定することは不可能で、どうしても仮定の条件に頼らざるを得ないのです。この仮定の条件という不明確さが残る分、安全側に余裕を見ておく必要があるというわけです。

このように、安全上の必要があって設定されている余裕なのであり、建築基準法違反を許容するための余裕ではないのです。したがって、建築基準法令の基準に余裕があるので、違反があっても建物の安全に支障がないという説明は誤りだと考えます。

過去の大地震で建物が損傷・倒壊していないので構造的な欠陥(瑕疵)はない

こちらも業者側の代理人弁護士の主張でたまに見かけます。「過去の大地震でも崩れずに建っているわけだから問題ないでしょう」という主張です。どこか詭弁のようにも感じられますが、いかがでしょうか。

先にご説明した「欠陥(瑕疵)」の考え方をしっかり身につけていれば、惑わされることはないはずです。

欠陥(瑕疵)として主張立証しなければならないのは、契約違反や法令違反などであるということはすでにお分かりですね。構造的な欠陥(瑕疵)も同じことです。契約内容や建築基準法、建築基準法施行令、告示などで定められている基準に照らして、現状の建物の構造計画、構造計算、仕様などが違反しているかどうかが争点となります。

先の大地震で建物が損傷・倒壊したかどうかは争点とは無関係です。本来の争点に主張立証を集中すべきであり、私は、このような主張はほとんど相手にしません。

いかがでしたでしょうか。このようにじっくりと突き詰めて考えれば、何かおかしいということに気が付くと思います。

しかし、専門的な知見を有する業者や代理人弁護士がもっともらしく主張してきた場合には、反論に窮してしまうことも多いでしょう。

そこで、欠陥住宅の被害に遭った場合には、まずは自分の味方になってくれる専門家を探しましょう。

次回は専門家の相談窓口をご紹介します。

髙木 秀治 このコラムの執筆者
髙木 秀治(タカギ シュウジ)
欠陥住宅全国ネットに所属。2014年に欠陥住宅関東ネットの事務局長に就任、同ネットで弁護士と建築士による定例相談会を毎月開催。2018年に第二東京弁護士会の住宅紛争審査会の紛争処理委員に就任。プラス法律事務所のパートナー。

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