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第22回 比較コラム「エアコンVS全館空調」

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回は快適性に関係してくるエアコンと全館空調についてです。

最近では、高気密高断熱を謳い始める住宅が多いため、必然的に温熱環境や空気環境についても「どうしたらよいの?」という疑問を持つ方が増えてくるのでしょう。

エアコンと全館空調のどちらがいいか?というのも一言では正解にたどり着きませんから、基本的な違いや特徴を解説します。

まず一つ目ですが、エアコンとは「air conditioner(conditioning) エアーコンディショナー」ですから、空気の調整が直訳でしょうか。別の呼び方ではルームエアコンがあります。各部屋の空気を個別に調整をする住宅用のものですね。

原理は割愛しますが、室外機・室内機がセットになっていて外気を利用して部屋の温度を上げたり下げたりする仕組みです。機械によっては加湿や除湿が出来る機能もついています。部屋毎に設置しますから、室内機の設置は各室に1個となります。

一方、全館空調は建物全体を1つの室内機で空気調和していきます。つまり家の中の温度や湿度をまとめて一定にコントロールしていくことになります。場所による温度変化が少なく、快適性には優位性があります。

また、エアコンと違うのは、換気の機能も兼ね備えていることでしょう。

写真は三菱地所のHPから

写真のような換気ガラリが外壁に設置され、一方はSA(サプライエアー)として、片方はRA(リターンエアー)として室内機とつながっています。

空気環境を考えると「換気」は非常に重要です。エアコンの場合には換気計画を別に検討しなくてはいけませんから、この点が大きな違いだと思います。

さて、どちらの方式をチョイスするかは、まず生活スタイルが重要です。

わかりやすい例をだすと
【クローズなホテルライクな毎日か】

もしくは【オープンで風通しのよい毎日か】

どちらが良いか?ですね。

例えば、朝の起床後に窓を開けて四季を感じたいという毎日を過ごしたいのであれば
ほとんど全館空調は意味がありません。

これまでの暮らし方と同時に今後の毎日をどのように過ごしていくかは大切ですね。

多くの方から、費用面ではどうか?という声も聞きます。イニシャルコストは当然にエアコンのほうが安価で済みますね。特に、普段使わない部屋は設置しないなど、イニシャルコストを選択する幅もあります。

ランニング費用ですが、全館空調は高額なイメージを持たれる方もいますが、それほどでもありません。電気設備は特に、初期稼働時の電力消費が大きいので、稼働しっ放しであればエアコンと大きな差額は感じられないでしょう。(当然生活スタイル、機器の使用状況、メンテナンスによりますので、全館空調を検討する際には、試算や過去の実データの説明を受けて金額を比較検討してください)

設計上では、ダクト経路の計画や吹き出し位置の配置などを検討しなくてはいけない全館空調に対して、エアコンはさほど考えなくてすみそうです。

特に全館空調の天井裏のダクト経路は複雑ですから、採用率が低いメーカーであれば、計画が設備メーカー頼りになることもあります。

写真は三井ホームの小屋裏です。太いダクトがたくさん見えますが、この経路を検討・処理するのは経験値がないと難しいですね

臭気や粉じんが多い室(EX:喫煙)がある場合には、ダクトを別系統に計画をする必要があります。嗜好や趣味などでも部屋の使い方が変わってきますから、設計のプラン段階から空調方式を検討していく必要があります。

2世帯住宅を検討している世帯では、生活スタイルの違いから要望に相違が出ることがありますので、すり合わせをしておきましょう。

デザイン面(見え方)で言えば、部屋の壁に大きな室内機が設置されるエアコンと比較し、全館空調は吹き出し口があまり目立ちませんから、こちらに軍配が上がりそうですね。
次の写真は積水ハウスのシャーウッドです。
壁面のエアコンは気になると言えば気にりますね。。

次の写真は工務店案件ですが、全館空調採用のものです。
吹き出し口しか見えませんので意匠上ではすっきりしていますね。

メンテナンスに関しては、エアコンに優位性があるでしょう。

全館空調メーカーのパンフレットには、機器のリフレッシュ(機器交換)は「10年」を目安としています。早い場合には設置後10年程度で機器交換になってしまうのです。高額な機器を10年サイクルで交換していくのはなかなか厳しいですよね・・

一方でエアコンは使用頻度により、交換時期も各部屋で違いますし、壊れてしまったものだけを交換していく手法が取れます。

全館空調で以前にあった相談では「ちょうど大雪の際に機器が壊れてしまって、数週間暖房が使用できず大変だった」といったケースもあります。
次の画像は築15年超で全館空調入れ替えの見積もりのものです。

一概には「どちらの設備方式が優れている」とは言えませんが

・空気、温熱環境に関しては全館空調が断然に優位
・費用に関しては若干エアコンが優勢
・設計やデザインは、何を重視するかにより引き分け
・普段使いは全館空調、メンテナンス(交換)についてはエアコン
というところでしょうか。

次回は、省エネVSパッシブ住宅を予定しています。

市村崇 このコラムの執筆者
市村崇(イチムラタカシ)
一級建築士・ホームインスペクター。大手HMの現場監督を経て2007年に設計事務所・工務店を設立、10年間で500棟以上の施工管理を行う。2013年に(社)住まいと土地の総合相談センター副代表に就任。建築トラブルを抱える多くのクライアントの相談に乗る傍ら「絶対に後悔しないハウスメーカー&工務店選び 22社」など多くの本を企画、執筆している。

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