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第27回 名誉毀損の救済方法(6)

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回は前回に引き続き、損害賠償請求以外の救済手段を取り扱います。今回は、差止請求等が行われた実際の事案を見ていきます。

差止請求が認められた例

(1)被告出版社が、被告Aが共著した本件書籍を発行したところ、本件書籍の被告Aの執筆部分に原告の人格を疑わせる記述があり、原告の社会的地位を低下させたとして、原告が、被告出版社に対し、人格権(名誉権)に基づき本件書籍の当該記述部分の出版、販売及び頒布の差止めを求めるとともに、被告両名に対して、不法行為(名誉毀損)に基づき、謝罪広告の掲載並びに慰謝料1000万円等の支払を求めた事案(大阪地判平15・5・19判時1839-134)

裁判所は、差止請求について、「本件記述は原告の名誉を毀損する事実を摘示するものであるから、これを含む本件書籍の出版、販売又は頒布が継続されれば、原告の名誉は今後も毀損され続けることになるので、これを差し止める必要は強い。これに対し、本件記述は、被告Aの広辞苑がK氏を人名項目に掲げることへの批判を補強する意味を持つに過ぎず、本件記述がなくても、被告Aの目的は十分に達成することができるものである。

さらに、前提となる事実記載のとおり、本件書籍は、出版から1年半が経過しており、すでに相当部分が販売されていること、初版が5万部印刷されたものの、2万部強が不良処理されるなどしており、実売数を差し引くと、在庫及び市場に流通している部数は、数千部単位であって、その販売等を差し止めたとしても、被告らの被る財産的影響はさほど大きくはないことが推認される」と述べて請求を認めました。

なお、損害賠償請求については被告各自50万円のみ一部認容し、名誉回復措置(謝罪広告)については、必要性が認められないとして棄却しました。

裁判所は、比較衡量において、被告の不利益がさほど大きくないことを重視したものと考えられます。

(2)殺人・死体遺棄被告事件において無罪を主張していた被告人に関する週刊誌記事及び書籍において、被告人が別件の放火事件・窃盗事件の犯人であることを印象づける記述により名誉が毀損されたとして書籍の増刷、販売の差止等を求めた事案(東京地判平19・1・23判時1982-115)

裁判所は、差止請求について「本件書籍中の本件放火等事件記述部分は、原告の名誉を毀損する事実を摘示するものであり、今後も本件書籍が増刷及び販売され続ければ、将来にわたり原告の名誉は毀損され続けることになるため、これを差し止める必要性は高い。他方、前記認定のとおり、本件書籍は、平成14年11月1日以降約10万部発行されており、既に相当部分が販売されたものと考えられることからすれば、将来の増刷及び販売を差し止めることによる被告新潮社の表現行為に対する制約は全体として限定的であり、これにより被告新潮社が被る財産的影響もさほど大きくないものというべきである」として、記事の一部に限定して書籍の増刷、販売の差し止めを認めました(但し、控訴審において差止請求は棄却されました。)。

この事案でも、裁判所は個別の事情を踏まえた比較衡量により結論を導いています。また、書籍全体ではなく、記事の一部のみの差止を認めた点が注目されます。

2差止請求が認められなかった例

原告が、被告Aが執筆し被告会社が出版した書籍(いわゆるモデル小説)中の記述により名誉を毀損されたとして、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づく慰謝料等の支払、名誉回復請求権に基づく日本経済新聞への謝罪広告の掲載並びに人格権に基づく本件書籍の販売禁止と回収を求めた事案(東京地判平21・8・26判タ1342-202)

裁判所は、名誉毀損の成立については認め、被告らに55万円の損害賠償義務を認めましたが、差止請求については、「既に出版等の行為がされた場合であっても常に名誉毀損行為を理由に差し止めることができるのではなく、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難であると認められる場合に限り、差し止めを求めることができると解するのが相当であるところ、(中略)本件書籍は平成20年2月13日以降増刷及び出荷を停止しており、本件書籍の印刷部数は1万8000部でそのうち約4000部が被告会社において返品在庫として保管されている状態であることからすれば、本件書籍により原告が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難であるとまで認めることはできない」として請求を棄却しました。

名誉毀損による損害が発生した場合であっても、原告に差止請求を認めるほどの重大な損失を受けるおそれがあるとは認められないと判断されたケースとして注目されます。

ポイント

裁判所は、差止請求の可否について、個別の事情を踏まえ、侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して判断している。

書籍に関する差止が認められた事案において、裁判所が、差止の対象を書籍全体ではなく、記事の一部のみに限定した事案がある。

名誉毀損による損害賠償請求が認められた事案であっても、差止請求は棄却された事案がある。

次回も、今回に引き続き、名誉毀損に対する損害賠償請求以外の救済方法を取り扱う予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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