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第21回 名誉毀損の成立阻却事由(6)

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回も、名誉毀損の成立阻却事由について争われた具体的な事例を見ていきます。今回は、相当性の抗弁の成否が争点となった事例を取り扱います。相当性が認められる(摘示された事実の真実性の証明ができない場合に、事実を真実と信じたことが相当といえる)かの判断には明確な基準があるわけではなく、それぞれの事案における情報源、裏付け資料、資料の入手方法等の様々な事情の総合的考慮により判断されますが、実際のケースでどのように判断されているかが参考になると思います。

生れつき口の形が変わっている生後3か月の乳児の窒息による変死について、捜査当局が公の発表をしていない段階において、新聞紙上で家族の誰かが殺害したものであるという印象を与える記事が掲載された事案(最判昭47・11・16民集26-9-1633)

この事案では、一審では相当性の抗弁が否定されたのに対して、原審の東京高裁は、「本件記事の取材に当つたA記者は、B医師及びC刑事官について取材して情報を得たものであつて、C刑事官からの取材は、捜査当局の公の広報活動によるものでないとはいえ、単に捜査担当官から私的に得た情報ではなく、捜査の責任者であり、かつ、署長とともに捜査当局の見解を発表する権限を有するC刑事官から直接説明を受け、しかも再度にわたり取材の結果を報道することにつきC刑事官の諒解を得ているのであるから、捜査当局の公の発表に近いものとして信頼に値する情報であると判断したもの」「右情報についての裏付取材はしていないけれども、報道の迅速性の要求からして、さらに右事件の特殊性から第一審原告方以外には取材源はないに等しいところ、A記者は、第一審原告方で取材を拒否され、結局断念したものであつて、(中略)裏付取材をしなかつたからといつて責めることはできない。」等と述べて一審判断を覆して相当性の抗弁を認めました。

しかし、最高裁は「本件記事の内容は、生まれつき口の形が変つている生後三か月の嬰児の窒息による変死に関するものであるところ、捜査当局においてはその屍体解剖を終つたばかりで、未だ家族に対する事情聴取もすんでおらず、Dの死が単なる事故死であるという可能性も考えられ、捜査当局が未だ公の発表をしていない段階において、上告人らの誰かがDを殺害したものであるというような印象を読者に与える本件記事を新聞紙上に掲載するについては、右記事が原判示の如く解剖にあたつたB医師およびC刑事官から取材して得た情報に基づくものであり、同刑事官が署長と共に捜査経緯の発表等広報の職務を有し、右報道することについて諒解を与えたとしても、被上告人新聞社としては、上告人らを再度訪ねて取材する等、更に慎重に裏付取材をすべきであつた」と述べて原審判決を破棄し、相当性の抗弁を斥けました。

マスコミ報道に関する相当性の判断においては、裏付取材を行ったかどうかが重視されていることが読み取れます。

薬害エイズの問題について、雑誌や単行本において、加熱製剤の治験の責任者であった医師が、製薬会社の利益を図るために治験を遅らせた、その時期に製薬会社各社から寄付を募っていた等の趣旨の記載がされたことについて相当性の成否が争われた事案(最判平17・6・16判タ1187-157)

この事案では、一審では相当性の抗弁が認められましたが、原審の東京高裁は、執筆者が参考にした他のジャーナリストの著作について、「同著作に記載された事実が真実であることについて、高い信頼性が確立していたことを認めるに足りる証拠はない」等、参考にした情報それぞれを個別に検討したうえで、記載された事実を真実と信じる相当の理由は認められないとして、一審の判断を覆して相当性の抗弁を斥けました。

これに対し最高裁は「『治験の時期』は、実際に治験が行われた時期に限られることなく、治験の実施が具体化する前後の時期を含むものと広く解することができる」としたうえで、「前記事実関係によれば、上告人は、その取材によって、(中略)被上告人は、『もう終わった。』と答え、寄付の要求をしていないとは述べなかったことを知ったことが明らかである。」「本件記載執筆当時、上告人が、本件記載イの摘示事実、すなわち、被上告人が加熱製剤の治験の時期にSの設立資金とするために製剤メーカー各社から寄付を募っていたという事実を真実であると信じたことには相当の理由がある。」等と述べて、原審判決を破棄して相当性の抗弁を認めました。

原審の東京高裁は、執筆者が根拠とした情報を個別に検討したのに対し、最高裁は、情報や事実関係を総合的に判断したという判断手法の違いにより異なる結論が導かれたと考えられます。

今回紹介した事例は、いずれも控訴審と上告審で2度にわたり判断が覆っており、相当性の判断が非常に難しい事案であったと考えられます。

ポイント

相当性の判断において、最高裁が、報道機関が裏付け取材をすべきであったとして相当性を否定した事例がある。

執筆者が参考にした情報について、最高裁が、個別の情報が相当性の根拠となるかという判断手法をとらず、他の情報等と併せて総合的に判断して相当性を認めた事例がある。

相当性の成否については、裁判所の判断が高裁と最高裁で2度覆っている事例もあり、判断が難しいケースもある。

次回からは、名誉毀損に対する法律上の救済方法を取り扱う予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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