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第20回 名誉毀損の成立阻却事由(5)

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回まで、成立阻却事由の要件を見て来ましたが、今回も、名誉毀損の成立阻却事由について争われた具体的な事例を見ていきます。今回は、目的の公益性が認められるかが争点となった事例を取り扱います。

共に美容整形女医としてマスコミ等で有名であった原告と被告が、「注入法」による美容整形術に関する立場の違いから激しく対立し、原告がテレビ出演した際に被告を悪徳医と決めつけた原告の発言等について、名誉毀損の成否が争われた事案(東京地判平2・1・30判タ730-140)

上記の事案では、両者の対立から、双方が互いに名誉毀損に基づく損害賠償を請求する複雑な争いとなりましたが、原告のテレビでの発言が問題となった件について、裁判所は「原告平賀の本件番組における発言を、その状況、事実摘示の際の表現方法の相当性、根拠となる資料の有無等の客観的関係(前記認定のとおり、三名の被害者のうち少なくとも前記二名についてはその発言が真実のものとは認められず、これを前提とした原告平賀の発言も同様である。)、発言の動機等の主観的関係などから考察すると、公共の利益を図る目的をもってされたものと認めることができない」と述べて、目的の公益性を否定しました。

裁判所は、目的の公益性の判断において、発言の動機等の主観的な要素だけでなく、発言の状況、表現方法、根拠資料の有無等の客観的要素も考慮して判断していることが読み取れます。

衆議院議員(当時)の鈴木宗男(原告)が、被告の発行する雑誌「月刊G」において、「権力支配にトチ狂う?Iセンセイの戦略・戦術」等の見出しとともに、原告を誹謗中傷する記事が掲載されたことについて名誉毀損の成否が争われた事案(札幌地判平15・10・27)

上記の事案において、裁判所は、「本件記事については、根拠が全くないか、あったとしても、単なる噂を丸呑みにしたずさんな取材に基づく極めて薄弱なものであることに照らすと、その掲載等には原告に対する不当な加害目的すら窺われ、専ら公益を図る目的に出たことの証明もない」と述べて、目的の公益性を否定しました。

裁判所は、ここでも記事の根拠や取材の方法等の客観的な要素も踏まえた判断を行っており、ずさんな報道に対しては厳しい判断を下す傾向が読み取れます。

刑事事件で勾留されていた原告が、大手新聞社である被告に対し、被告の発行する週刊誌に掲載された「スクープ盗み撮り写真で皇族を脅迫していた『悪の天才』の半生」との見出しや少年時代の行為についての記事による名誉毀損の成否が争われた事案(東京地判平3・9・30判タ1402-86)

上記の事案において裁判所は、個々の記事について検討したうえで、事実の公共性が認められる記事については「事実の摘示は、報道機関によってされたという事実のみから、専ら公益を図るためにされたと推認することができる」として目的の公益性を認めました(事実の公共性が認められないと判断された記事もあり、原告が一部勝訴)。
上記判断は、裁判所の新聞社に対する一定の信用を前提としていると考えられ、報道の主体やその媒体によって、目的の公益性の判断に差が生じる傾向が読み取れます。

ある女性が、悪徳商法による詐欺事件で社会的注目を浴びていた豊田商事会長の愛人であり、悪徳商法のパートナーでもあった等とする雑誌記事について名誉毀損が争われた事案(東京地判昭63・2・15判時1264-51「週刊フライデー」名誉毀損事件)

こちらは前回、事実の公共性の争点に関して紹介した事案(事実の公共性を否定)ですが、目的の公益性についても争われており、裁判所は、「その対象とされた事実自体は、豊田商事問題との関連における公共の利害とは何ら関係のない事実であり、また、被告が主張するように訴外豊田商事及び同グループの反社会的商法の実態を解明しその悪徳商法を根絶するという公益目的に出たものと認めることはできない」と述べて、目的の公益性も否定しています。

本事案のように、事実の公共性が否定されるケースでは、原則、目的の公益性も認められないと考えて良さそうです。また、3の事例で見られた「報道機関によってされたという事実のみから、専ら公益を図るためにされたと推認することができる」といった判断はなされておらず、同じマスコミであっても、写真週刊誌のような雑誌と新聞社による報道とで異なる判断がされています。

ポイント

目的の公益性の判断において、発言の動機等の主観的な要素だけでなく、発言の状況、表現方法、根拠資料の有無等の客観的要素も考慮して判断された事案がある。

週刊誌の報道において、根拠がない、または根拠がずさんな取材によるもののみであることを理由として目的の公益性が否定された事案がある。

新聞社の報道について、報道機関によってされたという事実のみから、専ら公益を図るためにされたと推認することができると判断された事案がある。

次回も、今回に引き続き、名誉毀損の成立阻却事由が争われた実際の事例を見ていく予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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