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第16回 名誉毀損の成立阻却事由(1)

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回から、名誉毀損の成立阻却事由(免責要件)について見ていきます。人の社会的評価を低下させる表現が行われた場合であっても、一定の要件を満たす場合には、名誉毀損が成立しないとされています。これから数回は名誉毀損の成立が阻却される免責要件について取扱い、初回の今回はその概要を見ていきます。

刑法上の名誉毀損罪における免責要件

(1)刑法230条の2による規定

刑法上の名誉毀損罪では、名誉毀損に該当する行為が「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」(刑法230条の1第1項)と定められています。

すなわち、形式的に名誉毀損にあたる表現が行われても、①公共の利害に関する事実に関係したもので(事実の公共性)、かつ、②表現の目的がもっぱら公益を図るためのものであり(目的の公益性)、③事実が真実と証明された場合(事実の真実性)は、名誉毀損罪は成立しないとされています。

また、要件に関する特例として、同条2項では、「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす」とされ、犯罪行為についての公共性の擬制が定められています。さらに、同条3項では、公務員等に関する特定として「行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」と定められ、事実の真実性によって判断することとされています。

(2)判例理論

刑法230条の2第1項では、事実の真実性を証明することが求められていますが、判例は「たとい刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しない」(最判昭44・6・25刑集23-7-975)と述べ、判例理論により、①真実性の誤信、②誤信したことについての相当の理由の存在という条件のもとで、名誉毀損罪は成立しないとされています。

刑事においては、事実の真実性の証明がない場合には名誉毀損罪の成立は免れないとされていたところ(最判昭34・5・7刑集13-5-641)、上記の判例は、最高裁が民事上で相当性の法理(相当性の抗弁)を明らかにしたことも受けて(次項参照)、それまでの判例の考え方を変更したものです。

民事上の名誉毀損(不法行為)の免責要件

民事における名誉毀損(不法行為)に関しては、刑法230条の2のような明文の規定はありません。

しかし、判例は「民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しない」(最判昭41・6・23民集20-5-1118)と述べ、名誉毀損の成立が阻却される場合があることを明らかにしました。なお、同判例は「このことは、刑法230条の2の規定の趣旨からも十分窺うことができる」として、刑法との関係についても言及しています。

上記判示の前半部分、①公共の利害に関する事実に関係したもので(事実の公共性)、かつ、②表現の目的がもっぱら公益を図るためのものであり(目的の公益性)、③事実が真実と証明された場合(事実の真実性)には不法行為が成立しないとする考え方は「真実性の法理(真実性の抗弁)」と呼ばれています。

また、判示の後半部分、事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには不法行為は成立しないとする考え方は「相当性の法理(相当性の抗弁)」と呼ばれています。

ポイント

 刑法上の名誉毀損罪については、刑法230条の2の規定により、事実の公益性、目的の公益性、事実の真実性を満たす場合には、名誉毀損罪は成立しないとされている。

 事実の真実性の証明ができない場合であっても、判例理論により、一定の条件のもと、名誉毀損罪が成立しないとされる場合がある。

 民事上の名誉毀損(不法行為)については、免責要件に関する明文規定はないが、判例によって確立された真実性・相当性の法理により、それぞれの要件を満たす場合には名誉毀損の成立が阻却される。

次回も今回に引き続き、名誉毀損の成立阻却事由(免責要件)を取り扱い、民事上の真実性・相当性の法理をさらに詳しく見ていきます。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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