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第14回 名誉毀損の成立要件(3)

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回まで2回にわたって、名誉毀損の成立要件について概観しました。名誉毀損の成否は、人の社会的評価を低下させるかどうかがポイントになるわけですが、今回からは、名誉毀損の成立が争われた実際の事例を見ていきます。

今回は、裁判所が比較的問題なく名誉毀損の成立を認めたと思われる事例を取り上げます。

市長選挙の候補者が選挙運動時に町内会に現金を交付した旨の摘示(大阪地決平27・6・1判時2283-75)

上記の事例で、債務者(市長選挙の候補者および所属政党)は債権者(債務者と競った候補者)が公職選挙法に違反する不正行為を行ったかのような事実を摘示するものではないと主張しましたが、裁判所は「債権者が主体となって、大阪市長選挙における集票を目的として、選挙運動時又は投票日に直近する時期に、全町内会に100万円を交付したとの事実は、一般の視聴者等の普通の注意と視聴又は聴取等の仕方を基準とすれば、公職選挙法で罰則をもって禁止されている買収行為を債権者が行ったかのような印象を抱かせるから、前記ア記載の発言部分は、債権者の社会的評価を低下させるものと認められる。」として、名誉毀損の成立を認めています。

犯罪行為を行ったとの印象を与える表現は、通常、社会的評価を低下させると考えられます。

市営地下鉄の工事に関し、利権が衆議院議員に還流している、衆議院議員に上納金が納められている等の趣旨の摘示(京都地判平14・6・25判時1799-135)

この事例で、被告ら(出版社および同社の代表者)は社会的評価を低下させるに足りるものとはいえないと主張しましたが、裁判所は「衆議院議員である原告が、東西線建設工事という公共事業に関連して不法に金銭を得ているという趣旨のものであるから、原告の社会的評価を低下させるに足りるものであることは明らか」と述べています。

この事例は、公務員が職権を濫用していることを摘示する事例であり、裁判所は特に問題なく名誉毀損の成立を認めていると考えられます。

研究者による論文の不正についての摘示(仙台地判平25・8・29判時2211-90)

この事例で、被告ら(研究者および弁護士)は、本件各記事は、いずれも原告らの論文に対する論評ないし意見、つまり評価であって、事実主張ではなく、また、「原告らの説明ないし証明がなされない限り」という趣旨の限定を付けているから、ねつ造ないし改ざんがあると断定したわけでもないと主張しましたが、裁判所は「本件各記事による名誉毀損の成否は、研究者に限定されない通常人の普通の注意と読み方を基準に判断すべきであるところ、本件各記事は、一般読者に対し、原告が著者である本件各論文にねつ造ないし改ざんがあるとの印象を与えることは明らか」と述べています。

論文の改ざん等は研究者には許されない不正行為であることから、研究者の社会的評価が低下すると判断されたものと思われます。

漫画家のチーフアシスタントが作品の作画、ペン入れをほとんど担当しており、漫画家の影武者ともいわれているとの摘示(東京地判平7・11・17判タ953-222)

この事例で、被告ら(出版社、同社の代表者、記事の執筆者)は、本件記事は、原告がストーリーの決定、絵コンテの作成等漫画として最もオリジナルティーのある部分を一人で行っている事実を否定しているものではなく、アシスタントとの共同作業の部分が存在するというその限りでは真実を指摘しているから、原告の社会的評価を低下させるものではない等と主張しましたが、裁判所は「原告のような人気漫画家の多くは、全て一人で作業をするのではなく、その一部をアシスタントに分担させていることは、読者の多くが認識しているものと思われるが、その場合でもストーリーを含め少なくともその主要部分は漫画家自身が担当していることを前提として、作品あるいは漫画家の評価を下しているものと考えられるから、漫画家がアシスタント任せにしてほとんど漫画を描いていないとすると、読者は失望し、漫画家としての評価が低下することは明らか」と述べています。

漫画家に対する一般人の評価の仕方を的確に述べていると思われます。

テレビ局のアナウンサーが入局前に下着姿で接待等のサービスをするランジェリーパブにおいてアルバイトをしていたという事実等の摘示(東京地判平13・9・5判時1773-104)

上記事例で、被告(出版社)は、本件記事は、原告が客に対し積極的な接客をしていた事実を伝達するにすぎず、何ら破廉恥なサービスをしていた事実を伝達するものではない等と主張して争いましたが、裁判所は、アルバイトをしていた事実に加え「原告A自身も、そのランジェリーパブにおいて、客から下着が見えることを指摘されれば、積極的にこれを見せ、あるいは胸等をさわられても苦情をいわず、これを容認し、また、性に関する自己の体験を客から尋ねられるままに答えるなど、積極的に客が望む性的なサービスを提供していた事実を伝達するもの」との認定を行ったうえで、「通常の一般人であれば羞恥心を害される破廉恥な行為をしていたことを伝達するものであるから、本件記事の掲載によって、原告Aの社会的評価が低下することは明らか」と述べています。

単に水商売でアルバイトしていたことにとどまらない事実の摘示があったことを認めて判断している点も注目されます。

ポイント

 表現が人の社会的評価を低下させるかどうかの評価はケース・バイ・ケースだが、犯罪や違法行為を行っているとの印象を抱かせる表現については、裁判所が名誉毀損の成立を認めやすいと考えられる。

 公務員に関し、職権を濫用した事実の摘示については、裁判所が名誉毀損の成立を認めやすいと考えられる。

 違法行為ではなくても、職業上の倫理に反するなど職業人としての評価に関わる事実の摘示については、裁判所が名誉毀損の成立を認めやすいと考えられる。

次回は、今回に引き続き、名誉毀損の成立が争われた実際の事例を見ていきます。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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