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第13回 名誉毀損の成立要件(2)New!

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回は、名誉毀損の対象となる「名誉」の概念や名誉毀損の対象等を概観しました。今回は、前回に引き続き、名誉毀損の成立要件を見ていきます。

「毀損」とは?

名誉毀損における「毀損」について、判例は「人の社会的評価を傷つけることに外ならない」(最判昭31・7・20民集10-8-1059)と述べており、人の社会的評価を低下させる行為をいうと考えられています。この要件については、公然性の要否と社会的評価の低下の判断基準が問題となります。

(1)公然性

刑事における名誉毀損罪では、刑法230条が、「公然と事実を摘示し」と規定していることから、公然性が要件となることが明らかです。この「公然」とは、不特定または多数人の認識しうる状況をいうと考えられています。

これに対し、民事における名誉毀損では、刑法のような規定がないため、公然性の要否が条文上は明らかではありません。しかし、社会的評価を低下させるためには、一定程度の情報の伝播性は必要と考えられ、民事においても公然性は必要とするのが一般的な考え方です。

裁判例でも、警察官が被疑者に面会を求めた弁護士との間で激論となり「そんなことを知らないと胸のバッヂが泣くぞ」「青二才のくせに生意気言うな」「今日は暇だから話を聞いてやるが、よくもいろいろ理屈を並べるものだ」等と侮辱したケースで、これらの発言が第三者に聞こえない状況でなされたことも考慮して警察官の行為を違法と認めなかった裁判例(東京高判昭35・9・12判時243-25)や、抗議文の直接送付による名誉毀損の成否が争われたケースで「その内容を不特定又は多数の者が知り得ることは想定し難」いとして、名誉毀損の成立を否定した裁判例(東京地判平23・4・22判時2130-21)など、当事者のみが関与する状況では名誉毀損の成立が否定されており、公然性を名誉毀損成立の要件と考えているように思われます。

(2)社会的評価の低下の判断基準

ある表現が人の社会的評価を低下させるものであるかは、受け手の感じ方や、表現の読み方などによっても変わってくるため、一義的に決まるわけではありません。そこで、誰を基準に人の社会的評価を低下させるものかどうかの判断をすべきか、という問題が生じます。

この点について、判例は新聞記事による名誉毀損が問題となったケースで「一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合」(前記最判昭31・7・20)と述べ、一般人を基準とする考え方を示しています。また、テレビの報道に関するケースでも「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である」(最判平15・10・16民集57-9-1075)として、同じ基準に従うことを明らかにしています。

論評や意見による名誉毀損

刑事の名誉毀損罪では、1で述べた公然性の問題と同様、刑法230条により事実の摘示も要件であることが明らかなのに対し、民事の名誉毀損では、この点も条文上明らかではありません。そのため、民事の名誉毀損において、対象行為が事実の摘示に限られるのか、あるいは論評や意見も含むのかが問題となります。

この点について判例は「問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得る」(最判平9・9・9民集51-8-3804)と述べ、論評や意見によっても名誉毀損が成立することを明らかにしています。

したがって、民事においては、一般人の感覚を基準として人の社会的評価を低下させる表現であれば、それが事実の摘示か論評や意見であるかを問わず名誉毀損が成立することとなり、名誉毀損の成否を検討する場面では、事実の摘示と論評や意見との区別は不要ということになります。ただし、事実の摘示と論評や意見とでは、免責に関する要件が異なってくるため、免責を検討する場面ではそれらの区別が意味を持ち、名誉毀損による法的責任が生じるか否かの結論には大きく影響することになります。免責については、別の回で詳しく取扱います。

なお、判例は事実の摘示と論評や意見との区別についても、一般人を基準に判断すべきとしています(前記最判平9・9・9)。

ポイント

 名誉毀損における「毀損」とは、人の社会的評価を低下させる行為をいう。

 名誉毀損が成立するためには、公然性、すなわち不特定または多数人の認識しうる状況が必要となる。

 ある表現が人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、一般人の感覚を基準として決められる。

 民事における名誉毀損は、事実の摘示だけでなく、論評や意見によっても成立しうる。

次回は、これまでに説明した名誉毀損の成立要件を、名誉毀損の成立が問題となった実際のケースを題材に見ていきます。

(第14回は6月中旬公開予定です)
原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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