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第5回 不動産登記の基礎の基礎

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回のテーマは、不動産登記です。普段はほとんど関わりがないと思いますが、住宅を購入したり相続によって取得したりするときには、必ず出てくる手続です。不動産登記は非常に奥深い分野ですが、今回は、不動産登記に関する基礎的な内容を見ていきます。

1登記簿には何が書かれている?

不動産についてあまり馴染みのない人でも、登記簿という言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか?登記簿とは、土地や建物の情報が記録されたファイルというイメージです。土地であれば、その区画ごとに地番が割り振られ、建物であれば家屋番号が振られています。そして、各地番、家屋番号ごとに、その不動産の外形的な情報や権利関係等を記録したものが登記簿ということになります。

不動産の登記簿に登録された情報が書かれた書類(登記簿謄本)は、管轄する地域の法務局に行けば、誰でも取得することができます。他人の土地や建物の登記簿謄本も取得することができるのです。ですから、もし気になる物件がある場合には、事前に登記簿謄本を取得して内容を確認しておくことが重要になります。

〇表題部と権利部

登記簿は「表題部」と「権利部」に分かれていて、権利部はさらに「甲区」「乙区」に分かれています。

表題部とは、登記記録のうち、外形的な情報が記録される部分です。土地の場合には、地番、地積(面積)、地目(用途)、建物の場合には所在、家屋番号、種類、構造、床面積といった情報が書かれています。

権利部には、不動産に関する権利関係が記載され、所有権に関する情報は甲区に、それ以外の権利(抵当権等)に関する情報は乙区に書かれます。

2登記手続とは

不動産を売買するなどして、権利関係に変動があった場合に、その権利関係の変動に対応する記録をするために行う手続が一般的な登記手続です。

登記手続は、管轄する法務局に申請書とその他の必要書類を添えて申請します。登記の申請者については、「権利に関する登記の申請は・・登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない」(不動産登記法60条)という共同申請の原則が定められています。登記権利者、登記義務者という言葉は聞き慣れないと思いますが、権利にプラスの変化がある者(買主等)が登記権利者、反対にマイナスの変化がある者(売主等)が登記義務者です。登記申請は、代理人によって行うこともできるとされており、弁護士も申請を代理する権限を持っていますが、一般的には司法書士が代理するケースがほとんどと思われます(私も、会社に関する登記手続の申請の代理は経験がありますが、不動産登記の申請を代理したことはありません。)。

登記の申請がされると、法務局の登記官による受付の後、要件を満たすかどうかの審査が行われます。審査の結果、きちんと要件が備わっている場合には、申請が受理され登記が実行されます。これにより、申請された内容が登記簿に記載されます。一方、申請が要件を満たさない場合には、登記官により却下の処分がなされます。この場合には、登記簿には変更が生じません。

3権利証とは?

ところで、不動産登記に関係する書類として、権利証という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。法務局が発行する登記済証・登記識別情報通知書が一般に権利証と言われる書類です。権利証は登記手続の際に本人確認のために法務局に提出する書類であり、重要であることは間違いないのですが、権利証が不動産の所有権の根拠となるわけではありません。そのため、権利証を紛失したからといって不動産の所有権を失うこともありませんし、権利証がないと登記手続ができないということもありません(もっとも、手続が面倒になり、権利証に代わる書類発行のために追加の費用もかかるのが通常ですので、紛失しないに越したことはありません。)。

4二重譲渡と登記

民法を学ぶと必ず出てくる問題として、不動産の二重譲渡と登記の問題があります。民法177条は「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と定めています。この条文を読んでも、何のことか良くわからないと思いますが、この条文が問題となるケースとして、二重譲渡が挙げられます。

例えば、土地の所有者Aが、BとCの二人との間で同じ土地の売買契約を締結した場合を想定します。同じ土地を二人に売ることなどできないように思いますが、民法の仕組みでは、AとB、AとCの間でそれぞれ売買契約は成立し、BもCも売主Aに対しては買主としての権利を主張できることになります。しかし、BとCがいずれも買主だとすると、どちらが土地を取得したのか決まりません。ここで重要になるのが登記ということになります。仮にBが、Aとの間の売買を原因として登記手続を行うと、Cは登記手続を行えません。そして、(売買契約の先後にかかわらず)登記をしたBが土地を取得し、登記できなかったCは土地を取得することができない、ということが民法177条から導かれます。このように、登記手続は、権利変動を直接の相手以外の第三者に対しても主張できるようにするために、非常に重要な手続と言えます。

土地を取得できなかったCは、Aとの間では買主としての権利が主張できますが、目的の土地は取得できないわけですから、Aとの契約を解除して代金の返還を求めたり、損害賠償請求を行う等の対応をとるほかありません。

5登記簿の情報は必ず正しい?

上の例で、不動産の権利関係において登記が重要ということがお分かり頂けたと思いますが、最後に、登記簿の情報が必ず正しいか、という問題を考えてみましょう。

登記手続は、登記官の精密な審査を経て実行されますから、誤った登記がされることはほとんど考えられません。ただし、実体法上の権利変動が生じても、登記手続がされないままになっていることは珍しくなく、典型的な例は相続登記の未了です。例えば、不動産所有者が亡くなり、相続が発生したにもかかわらず相続の登記がされないまま、相続人も亡くなって次の相続が発生、といったケースは多く見られます。このようなケースでは、登記簿上の所有者(死亡)が実際の所有者でないことは明らかですから、登記簿の情報が常に正しいとは言えないことになります。登記簿上に最後に記載された情報から長く権利変動がない場合、相続の未登記等で実体上の権利関係と登記簿の情報に齟齬が生じている可能性もありますので注意が必要です。

もっとも、本コラムの第2回で扱った売買におけるトラブルも、登記簿を確認すれば防げるものもありますし、登記情報は基本的には信用性の極めて高い情報ですから、不動産の状況の確認には、まずは登記簿を確認することが必須です。

ポイント

登記簿謄本は不動産の情報が書かれた書類で、誰でも法務局で取得できる
不動産を購入しようとする場合には、登記簿の内容を確認することが必須。
権利証(登記済証、登記識別情報通知書)がないと登記手続ができないわけではない。
不動産の権利に変動があった場合には、原則として登記権利者と登記義務者が共同で登記申請を行う。
不動産に関する権利を得ても、権利関係に対応する登記手続をしないでおくと、他の人に権利を取得されてしまう場合がある。

次回のテーマは、住宅の建築が制限されるケースについてです。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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