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第46回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(1)

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コラムでは今回から新しいテーマとして、昨年4月から施行(なお、改正内容の一部は施行時期が異なります。)されている改正民法のうち、住宅(不動産)にかかわる内容を取り上げます。

現行の民法は、明治31年に施行されており、その後、相当回数の改正が行われてきましたが、いずれも大規模なものではありませんでした。しかし、今回の民法改正は内容、範囲ともに広範にわたり、「120年ぶりの大改正」とも表現されています。本コラムでは、改正された内容のうち、住宅(不動産)にかかわる内容にスポットを当てていきます。

なお、今回の民法改正では、不動産に限らず、取引(契約)全般に適用される内容(時効、法定利率等)についても改正が行われています。そうした契約一般にかかる内容についても、後に触れる予定です。

初回の今回は、住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要です。まず、住宅の売買にかかわる内容を概観します。大幅な改正があった項目については、個別に取り扱う予定です。

1手付

不動産の売買契約においては、売買金額の1割程度の金額を手付として定めるのが一般的です。

改正前も、手付に関する条文(民法557条)は置かれていましたが、今回の改正で、最高裁の判例で示されていた内容の明文化が行われました。

(1)「売主はその倍額を現実に提供して」

改正前の「償還」は、現実の「払渡し」が必要と解釈する余地もあったところ、判例(最判平6・3・22民集48-3-859等)の「現実の提供」(現金の受領を求める等)を要件とするとの解釈が明文化されました。

(2)「相手方が契約の履行に着手した後」

改正前の「当事者の一方」について、判例(最判昭40・11・24民集19-8-2019)は、「相手方」を指すと解釈していたものが明文化されました。

(改正前)

557条

1 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。

2 (省略)

(改正法)

1 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。

2 (省略)

2売主の義務

買主に対抗要件を備えさせることを売主の義務とする条文が新設されました。なお、改正の議論の過程では、売主による「権利移転義務」と「引渡し義務」を明示すべきとの意見も出されていましたが、他の条文と重複するとの指摘を受けて明文化を見送った経緯があり、売主には、これらの「権利移転義務」と「引渡し義務」があることは前提になっていると考えられます。

(改正法)

560条(新設)

売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う。

3 契約不適合

売主に課されていた担保責任(いわゆる「瑕疵担保責任」)が、契約不適合責任に改正され、無過失責任から契約責任に変更されました。

この、契約不適合にかかわる部分は、今回の民法(債権法)改正の中心的内容の一つとされており、様々な論点を含みますので、後の回で個別に取り扱う予定です。

4 権利を失うおそれがある場合の買主による代金支払いの拒絶

改正前にも、同様の条文が置かれていましたが、要件を「権利を主張する者があること」に限定するのは狭すぎる等の指摘がされていたことを受け、支払を拒絶できる要件を緩和する改正がなされました。

(改正法)

576条

売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により、買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず、又は失うおそれがあるときは、買主は、その危険の程度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。

ポイント

明治31年に施行された民法について、「120年ぶりの大改正」とも呼ばれる大幅な改正が行われ、昨年4月に改正民法が施行された。
改正の内容・範囲は広範であり、取引(契約)全般に及ぶ内容の改正もなされた。
不動産売買にかかる法改正は、手付、売主の義務の明文化、契約不適合、権利を失うおそれがある場合の買主による代金支払いの拒絶等が挙げられる。このうち、契約不適合は、今般の民法(債権法)改正の中心的内容の一つとされており、様々な論点を含む。

次回も、引き続き住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要をみていく予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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