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第41回 プライバシー侵害の救済方法(3)

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回は、プライバシー侵害の救済について、損害賠償の金額等が争いとなった、具体的事案を見ていきます。今回は、私的領域に違法に侵入した事案を取り扱います。

1国税調査官が調査対象者の承諾を得ないで、タンスやベッドの引き出しを検査するなどした事案(京都地判平7・3・27判時1554-117)

被告(国)は、調査に適法に行われたと主張して争いましたが、裁判所は、調査の違法性を認めたうえで、原告3名のうち2名について、「本件における違法調査の内容、程度、その他本件に表れた諸般の事情を総合考慮すると、原告X1に対する慰謝料は金30万円と認めるのが相当」「住居部分に自分や訴外Aの承諾がないまま、国税調査官らに進入されて、タンス内部やベッドの下の引出しなどを検査されるなどしたという重大なプライバシー侵害を被っているのであって、同原告の受けた精神的苦痛が大きなものであったことは容易に推認されるところであり、これに本件に表れた一切の事情(中略)を併せ考慮すると、原告X2に対する慰謝料は金30万円と認めるのが相当」と述べ、それぞれ30万円の損害賠償を認めました(請求額:一人当たり50万円~100万円)。

裁判所は、調査官がタンス内にあった女性の下着をかきまわした事実等を重視して重大なプライバシー侵害と認め、前回ご紹介した私的情報流出の事案に比べて高額の賠償が認めたものと推測されますが、損害に関する判示自体は「諸般の事情」「本件に表れた一切の事情」といった抽象的な表現にとどまっており、具体的な考慮要素は明確ではありません。

2集会の参加者に対し、警察官が行った職務質問、所持品検査について、集会参加者の原告らが、プライバシー侵害に基づく損害賠償請求等を求めた事案(東京地判平8・3・25判タ934-230)

裁判所は、警察の行った職務質問の態様等を詳細に検討したうえで、原告2名以外に対する行為については違法性を認めず、うち2名に対する行為についてのみ、許された検問の程度を超えて行った実力行使であり違法と認定しました。その損害については、いずれも「違法行為の目的、場所、プライバシー侵害の程度、身体の自由を制限した時間その他本件において認められる一切の事情を考慮すると、原告が被った精神的苦痛の損害の填補は、金5万円をもってするのが相当」と述べて、5万円の賠償を命じました(請求額:一人当たり100万円~300万円)。

裁判所が具体的に態様を検討したうえで、違法性を厳格に判断した点、違法性が認められた場合でも、慰謝料を低額にとどめている点が注目されます。

3警察官が、政党幹部宅の電話回線に盗聴工作を行い通話を盗聴したことについて、政党幹部およびその家族が国や県らに対して損害賠償を求めた事案(東京高判平9・6・26判時1617-35)

被告(国、県、関与した個人4名)側は、自宅の電話による通話内容が、本件アパートにおいて、現実に盗聴されていたことは証明されていないとして、原告らには何ら実害が生じていないと主張しましたが、原審(東京地判平6・9・6判時1504-41)は「通信の秘密、プライバシーの権利及び政治活動の自由は憲法によって保障された重要な人権であり、それが法を遵守すべき公務員である警察官によって侵害されたということ自体、極めて重大な問題を孕んでおり、その違法性・責任の重大さは、原告らの慰謝料額の算定においても十分に考慮されなければならない」としたうえで、政党幹部本人に対して100万円、その家族2名に対してそれぞれ50万円と30万円の慰謝料を認めました。

この判断に対し、原告・被告双方から控訴が申し立てられ、控訴審の裁判所は、「電話回線の傍受による盗聴は、その性質上、盗聴されている側においては、盗聴されていることが認識できず、したがって、盗聴された通話の内容や、盗聴されたことによる被害を具体的に把握し、特定することが極めて困難であるから、それ故に、誰との、何時、いかなる内容の通話が盗聴されたかを知ることもできない被害者にとって、その精神的苦痛は甚大であり、この点は、慰謝料額を算定するについて充分に斟酌すべきものである」と述べ、政党幹部本人の慰謝料を200万円、その家族の慰謝料をそれぞれ100万円と60万円に増額しました(請求額:一人当たり約1000万円)。

プライバシー侵害に対する慰謝料として比較的高額の賠償が認められた事案として注目されます。

ポイント

私的領域に違法に侵入した事案においては、数十万円から100万円を超える賠償が認められた事案もある。
職務質問に伴う所持品検査におけるプライバシー侵害が争われた事案において、裁判所が行為態様を具体的かつ詳細に検討したうえで違法性の判断を行い、違法性が認められた場合の慰謝料について5万円が相当と判断した事案がある。
警察による政党幹部宅での盗聴事案において、裁判所が、200万円の慰謝料を認めた事案がある。

次回も引き続き、プライバシー侵害に対する救済について、具体的事案に即して見ていく予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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