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第35回 プライバシー侵害の成立要件(2)

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回は、プライバシー侵害の成立要件の概要を説明しました。今回は、成立要件が争われた具体的事例に触れながら、どのような内容の情報がプライバシー侵害の成立要件を満たすのかを見ていきます。

今回は、前回説明した成立要件のうち、①私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること、②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められることがらであることの二つの要件が争点となった事例を見ていきます。

1異性関係

異性関係にかかる事実は典型的な「私生活上の事実」と考えられており、通常はプライバシー該当性が肯定されます。

〇芸能人が異性と同棲した事実を週刊誌が報じた事案(東京地判昭43・11・25判タ232-191)

裁判所は「俳優などの芸能人が週刊誌などのマス・メディアを一つの媒介として、民衆の間に人気を形成しているという職業上の特質を考慮に入れれば、これら芸能人がマス・メディアの上で保護されるプライバシーの権利は、他の一般人に比してある程度限定的に解されるかもしれない。」と述べつつ、「本来このようなことは私生活に属することで、みだりに公開されないという法的保障を有する。本件記事は、この法的保障を侵害するものである。芸能人であっても、商業主義的興味本位の犠牲に供されてはならないのであって、氾濫するプライバシーの侵害を甘受しなければならない理由は全くない。」と述べて、プライバシー侵害を認めました。

2家族関係

これも典型的な「私生活上の事実」と考えられており、通常はプライバシー該当性が肯定されます。

〇夫が弁護士、妻が技能人である夫婦の離婚や夫婦間の私生活上のトラブルを日刊紙が報じた事案(原告は夫。東京地判平5・9・22判タ843-234)

裁判所は、「離婚やそれにまつわる夫婦間の私生活上のトラブルが、一般に、いわゆるプライバシーの最たるものであることは、論ずるまでもないことであろう。」との原則を述べたうえで、原告の妻が芸能人であるという事情についても「ことに芸能人の私生活について公表することが、芸能人本人以外の家族や第三者のプライバシーをも公表する結果となるときは、家族等が公表を容認しているかどうか、家族等のプライバシーを不当に侵害することはないかどうかを慎重に判断して、報道等にあたるべきことは当然である。家族等が自らのプライバシーについて公表を容認していないのに、芸能人本人が容認しているからとして、家族等のプライバシーに属する部分を含めて公表したときは、芸能人本人に対しては適法行為とされても、家族等に対する関係では、違法なプライバシーの侵害として不法行為を構成することがあるといわなければならない。」と述べて、プライバシー侵害を認めました。

裁判所は、当事者が芸能人である場合、一般人とは異なる要素として一定の考慮をしているものの、プライバシーを放棄したものとは考えていないことが読み取れます。

3病歴

これも典型的な「私生活上の事実」と考えられており、通常はプライバシー該当性が肯定されます。

〇原告の雇用主がHIV感染者である原告に対して、感染の事実を告知したうえで解雇し、原告が雇用契約上の地位確認や損害賠償を求めた事案(東京地判平7・3・30判タ876-122)

裁判所は「使用者といえども被用者のプライバシーに属する事柄についてはこれを侵すことは許されず、同様に、被用者のプライバシーに属する情報を得た場合にあっても、これを保持する義務を負い、これをみだりに第三者に漏洩することはプライバシーの権利の侵害として違法となると言うべきである。」と述べたうえで、「個人の病状に関する情報は、プライバシーに属する事柄であって、とりわけ本件で争点となっているHIV感染に関する情報は、前述したHIV感染者に対する社会的偏見と差別の存在することを考慮すると、極めて秘密性の高い情報に属すると言うべきであり、この情報の取得者は、何人といえどもこれを第三者にみだりに漏洩することは許されず、これをみだりに第三者に漏洩した場合にはプライバシーの権利を侵害したことになると言うべきである。」と述べてHIV感染に関する情報のプライバシー該当性を肯定し、プライバシー侵害を認めました。

使用者の被用者のプライバシーに関する保持義務を述べた点でも注目されます。

ポイント

異性関係、家族関係、病歴については、典型的な「私生活上の事実」と考えられ、裁判所もプライバシー該当性を認める判断をしている。
当事者が芸能人である場合、裁判所は一般人に比べ、プライバシーを限定的に捉える場合があることを認めているが、プライバシーを放棄したものとは考えていない。

次回もプライバシー侵害の成立要件が争われた具体的事例を見ていく予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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