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第34回 プライバシー侵害の成立要件(1)

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れまで、名誉毀損についていろいろな観点からみてきました。今回からは、名誉毀損とともに問題となることも多いプライバシー侵害を取り扱います。

例えば、インターネット上での誹謗中傷の投稿が、名誉毀損とプライバシー侵害の双方に該当する、といったケースも想定されますが、名誉毀損とプライバシー侵害では、その法的根拠や成立要件等、様々な違いがありますので、それぞれについて理解しておくことが重要となります。

初回の今回は、プライバシー侵害の成立要件の概要を説明します。

1プライバシー権の根拠

日本の法律では、「プライバシー」や「プライバシー権」について、明確に定めた規定は存在しません。また、最高裁判所が「プライバシー」や「プライバシー権」の一般的な定義や要件等について言及した判例もありません。そのため、プライバシーの概念自体について、一定の共通認識はあるものの、統一された定義があるわけではありませんが、プライバシー権の法律上の根拠としては、幸福追求権などを定める憲法13条に求める見解が通説となっています。

なお、プライバシーが権利として保護の対象となることには争いがなく、最高裁判所がプライバシー侵害を認めた事案も複数あります(最判平15・9・12民集57-8-973等)。

2プライバシー該当性の要件

プライバシー該当性とは、ある者によって開示等をされた情報が、プライバシーとして法的保護の対象となるかどうかの問題をいいます。前述のとおり、プライバシーについては、明文の規定がなく、また、最高裁判所による明確な判示もなされていませんが、「宴のあと」事件(東京地判昭39・9・28判タ165-184)がプライバシー該当性の要件を示した裁判例として、広く参考にされています。

「宴のあと」事件判決が示した開示等をされた情報に関する要件は以下のとおりです。
①私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること。
②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められることがらであること。言い換えれば、一般人の感覚を基準として、公開されることによって心理的な負担、不安を覚えるであろうと認められることがらであること。
③一般の人々に未だ知られていないことがらであること。
④当該情報の開示等によって、当該私人が実際に不快、不安の念を覚えたこと。
これらの要件のうち、④については、通常、①から③を充足する場合には該当すると考えられることから、ほとんど問題になることがありません。そこで①から③の要件について見ていきます。

(1)要件①

「宴のあと」事件判決は、プライバシー権を「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」と定義しており、この定義に基づく要件です。家族、病歴に関する情報などが典型例です。もっとも、前科情報なども保護の対象とされることから、「私生活上」のという限定は不要との見解もあります。

(2)要件②

2番目の要件では、(ア)「一般人の感受性を基準」にする点、(イ)「当該私人の立場」で判断される点が重要です。(ア)により、当該私人が個人的に公開を希望しないという事情は考慮されず、(イ)により、当該私人が著名人であるという事情は考慮されることになります。

(3)要件③

③は非公知性の要件と呼ばれる要件で、情報が既に公知となっている場合、さらに開示等がされたとしても、法定保護に値する利益の侵害はないという理解に基づくものと考えられます。

ただし、開示等がされても法的保護に値する権利の侵害がないというためには、高い水準の公知性が求められます。一定の地域や範囲の人々にとって公知であったとしても、開示等がされた全体の地域や範囲の人々にとって公知でない場合には、非公知性を満たすと考えられており、この要件は緩やかに解釈される傾向にあります。

ポイント

プライバシーやプライバシー権について、明確に定めた規定は存在しないが、プライバシーが、権利として、法的保護の対象となることについては争いがない。
プライバシー該当性について、「宴のあと」事件判決が示した要件が判断の参考になる。
「宴のあと」事件判決の示した要件に従えば、プライバシー侵害が成立するのは、開示等された情報が、①私生活上事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであり、②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められ、③一般の人々に未だ知られていないことがらであり、④当該情報の開示等によって、当該私人が実際に不快、不安の念を覚えた場合である。

次回も今回に引き続きプライバシー侵害の成立要件について取り扱い、プライバシー該当性が争点となった事例をみていく予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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