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第33回 名誉毀損の救済方法(12)

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回は、インターネット上の名誉毀損に関する発信者情報開示請求等で、これまで触れていなかった点をいくつか見ていきます。

1サイト管理者の特定

(1)管理者特定の必要性

これまで見てきたように、匿名の投稿の削除請求や発信者情報開示請求は、裁判手続を用いるか否かにかかわらず、サイトの管理者を相手方にして行う必要があります。そこで、請求を行う前提として、サイト管理者の名称および住所を特定することが必要となります。

(2)管理者特定の手段

しかし、サイト上で確認できる情報だけでは、サイトの管理者を特定できない場合があります。そこで、サイト管理者を特定する手段として、インターネット上で提供されている「Whois」というサービスがあります。

インターネットで使用されるIPアドレスやドメイン名の登録者は、一定の情報を提供することが義務付けられており、「Whois」を用いることにより、登録者に関する情報を検索することができます。

「.jp」ドメインの場合、㈱日本レジストリサービス(JPRS)が提供するサービス(https://whois.jprs.jp/)により検索することができます。「.com」ドメインの場合、INTERNICが提供するサービス(https://www.internic.net/whois.html)により検索することができます。一括でドメイン検索が可能な無料のウェブサイトもありますので、そちらを利用することも考えられます。

2サイト管理者に対して開示を求める情報

発信者情報開示請求に当たっては、前回ご紹介した「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン」の書式が参考になります。同書式では、開示を請求する発信者情報が列挙されていますので、それに沿って請求を行うことが一般的です。

もっとも、匿名の投稿についての発信者情報開示請求の場合、サイト管理者に対する請求により発信者の氏名や住所が判明することは期待できないため、情報の中心はIPアドレスとなります。情報開示を受けられた場合に、IPアドレスをもとに、さらに接続プロバイダに対して発信者情報開示請求を行い、発信者の特定を試みることはこれまで説明したとおりです。

しかし、接続プロバイダに対して発信者情報開示請求を行う際、IPアドレスのみを提示しても開示に応じてもらえず、「接続元ポート番号」の提示を求められることがあります。この「接続元ポート番号」は、ガイドラインの書式に記載がなく、書式をそのまま用いてサイト管理者に対する請求を行った場合、管理者が情報開示に応じたとしても、接続元ポート番号の把握には至らないケースがあります。

そこで、サイト管理者への再請求等による時間や手間を省くためにも、サイト管理者への発信者情報開示請求に当たっては、IPアドレスと合わせ、「接続元ポート番号」の開示を求めることを明記しておくのが望ましいと考えられます。

3発信者情報消去禁止の仮処分

サイト管理者からのIPアドレス等の開示により接続プロバイダが特定できた場合、引き続いて接続プロバイダに対して発信者の氏名、住所等開示請求を行うことになります。しかし、接続プロバイダは、一定の保管期間(6か月が一般的)を経過すると、プロバイダが保有する発信者情報を削除するのが通常であり、その後に請求を行っても、情報開示が得られないことになります。

サイト管理者から情報開示が得られた時点で既に投稿が行われた時点から相当期間が経過していることや、訴訟手続によって開示を求める場合、訴状の受理から期日指定までにも時間を要すること等からすると、接続プロバイダの情報保管期間内に開示を得ることが困難な場合も想定されます。

そこで、接続プロバイダに対して発信者情報開示請求を行っている間に情報の保管期間が経過し、発信者情報が削除されてしまう事態を防ぐために、接続プロバイダに対する発信者情報消去禁止の仮処分の申立てを行うことが考えられます。

発信者情報開示の仮処分の場合と同様、裁判所から仮処分決定を得るためには、担保(~30万円が一般的)の提供を求められるのが通常ですので留意が必要ですが、発信者情報消去禁止の仮処分を得ておけば、接続プロバイダの保管期間にとらわれることなく手続を進めることができます。

いずれにしても、発信者情報開示請求を検討する場合、情報保管期間に限りがあることを念頭に、速やかに手続を進めることが重要になると考えられます。

ポイント

サイトの管理者を特定する方法として、「Whois」というサービスがある。
発信者情報の一つに「接続元ポート番号」があり、これを把握しておかないと発信者の特定につながらない場合があるので、サイト管理者に対する発信者情報開示請求に当たっては、IPアドレスとともに「接続元ポート番号」の開示を求めることが望ましい。
接続プロバイダからの発信者情報開示前に発信者情報の保管期間が経過してしまうおそれがある場合、接続プロバイダに対する発信者情報消去禁止の仮処分の申立てを行う方法がある。

次回からはプライバシー侵害についてみていく予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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