広告を掲載

第32回 名誉毀損の救済方法(11)

  • facebook
  • twitter
  • hatena
  • LINE

回は、インターネット上の名誉毀損に関するサイト管理者に対する発信者情報開示請求を中心に、その具体的方法を見ていきます。

1裁判手続外の発信者情報開示請求

(1)請求書の書式

裁判手続外での発信者情報開示請求は、通常、サイトの管理者に対して必要事項を記載した書面を送ることによって行います。

書面については、必要な内容が盛り込まれていれば良く、定型の書式に従うことは必須ではありません。もっとも「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン」(https://www.telesa.or.jp/ftp-content/consortium/provider/pdf/provider_hguideline_20180208.pdf)において、発信者情報開示請求書の書式が掲載されており、実務上、この書式を用いて請求することが多く行われています。

サイト管理者側での作業の迅速化の観点も踏まえると、ガイドライン書式を用いた請求を検討すると良いと思われます。

(2)添付書類

請求者の本人確認のため、請求者が個人であれば、運転免許証等の写し、請求者が法人の場合、資格証明(代表者事項証明書等)の添付が求められます。

サイト管理者が、発信者情報を開示するかどうか判断するに当たっては、「権利が侵害されたことが明らか」であるかが重要な判断基準となります。サイト管理者は、請求者と投稿者との間の事実関係には接していないことが通常です。投稿内容のみから誹謗中傷以外の意図は読み取れず、管理者の判断が容易と考えられる場合もありますが、実体験に基づくような記載で、投稿内容のみからでは、投稿内容の真実性を含め、権利侵害の有無の判断が困難な場合が多いと思われます。

したがって、権利侵害が明らかであることを根拠づける証拠を可能な限り収集し添付することが、サイト管理者から任意の情報開示を受けるうえで重要になると考えられます。証拠の収集、添付に当たっては、ケースに応じて、有効な証拠や収集方法等を十分検討することが重要と思われます。

2裁判手続による発信者情報開示請求

(1)仮処分の有効性

裁判手続による場合、訴訟手続を用いることもできます。一般的な民事事件の場合には訴訟がもっとも一般的な手続ですが、発信者情報開示請求の事案においては、迅速性が求められることもあり、民事保全法に基づく仮処分手続を用いることが広く行われています。

ほとんどのサイト管理者は、裁判所の仮処分決定が発令された場合には開示に応じますので、裁判手続外での請求にサイト管理者が応じなかった場合に、有効な手段となり得ます。また、裁判外の手続による開示の見通しが不透明な場合、情報の保存期間の制約などで時間的な猶予がない場合等に裁判手続外での請求を行わずに直ちに仮処分手続を申し立てる方法も考えられます。

(2)申立てにおける留意点

仮処分手続は裁判手続の一種ですので、裁判所が定める書類や手数料等を準備する必要があります。

また、仮処分手続においては、保全の必要性(民事保全法13条2項)について、疎明する必要があります。

さらに、仮処分決定の発令に当たっては、裁判所が定める担保金を納付することが求められます。担保の金額は事案により異なりますが、10万円から数十万円といった辺りで定められることが多いようです。担保金は、取戻しに所定の手続と時間が必要となります。

3接続プロバイダに対する発信者情報開示請求

匿名での情報発信が可能な掲示板等では、仮にサイト管理者からIPアドレス等の発信者情報の開示が得られたとしても、それらの開示された情報のみからでは、発信者個人の特定に至らないことが普通です。そこで、発信者に対する名誉毀損に基づく損害賠償請求を想定する場合、サイト管理者から開示された情報を基に、今度は、接続プロバイダに対して発信者情報の開示請求を行う必要があります。

この場合も、サイト管理者に対する請求と同様に、裁判手続外での請求と裁判手続による請求が考えられます。

いずれの方法によっても、サイト管理者に対する請求と合わせ、2段階での請求を行わないと発信者個人の特定に至らないのが通常であり、順調に開示を得られたとしても、そこに至る手続に相当の時間を要することに留意が必要です。

ポイント

発信者情報開示請求は、裁判手続による方法と、裁判手続外で請求する方法があり、そのうち裁判手続外での発信者情報開示請求については、ガイドラインにより請求書の書式が示されており、請求の際の参考になる。
サイト管理者に対する裁判手続による発信者情報開示請求は、仮処分を用いる方法が広く行われている。
匿名で発信された発信者情報等については、サイト管理者から開示された情報のみでは発信者の特定につながらず、さらに接続プロバイダに対して発信者情報の開示請求が必要となることが多い。
発信者情報開示請求を行う場合、発信者情報の保存期間が切れる場合もあるので、迅速な対応が求められる。

次回は削除請求や発信者情報開示請求にかかわる付随的な内容をいくつか紹介する予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

コラムバックナンバー