広告を掲載

第26回 名誉毀損の救済方法(5)

  • facebook
  • twitter
  • hatena
  • LINE

回まで、名誉毀損に対する代表的な救済手段である損害賠償請求について見てきました。今回からは、損害賠償請求以外の救済手段を取り扱います。なお、最近よく見られるインターネットやSNSにおける名誉毀損に対する救済手段については、別の回に取り上げる予定です。

1損害賠償請求以外の民事上の救済手段

名誉毀損に対する民事上の救済手段としては、これまで見てきた損害賠償請求がもっとも一般的な手段ですが、その他に、差止請求と名誉回復措置(民法723条)があります。

また、不正競争防止法、著作権法、特許法には個別の救済手段の規定があります。

2差止請求

(1)差止請求の法的根拠
差止請求については、民法に明文の規定はありませんが、判例は「人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解するのが相当」(最判昭61・6・11民集40-4-872「北方ジャーナル事件」)と述べてこれを認めています。

(2)差止請求の要件
差止は憲法で認められている表現の自由を制約する強力な手段であるため、差止請求が認められるのは例外的な場合とされています。

(1)で挙げた北方ジャーナル事件判決は、特に重要な公益にかかる表現について差止が認められる要件に関し「その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときは、(中略)、例外的に事前差止めが許される」と述べ、厳格な制限をかけています。

他方、公益目的でない表現に関する差止の場合、判例は、「どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。」(最判平14・9・24判時1802-60「石に泳ぐ魚事件」)と述べ、名誉毀損を受けた者の不利益と差止による不利益との比較衡量によって決める立場をとっています。

3名誉回復措置

(1)名誉回復措置の根拠、種類
民法723条は「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」と定め、明文で名誉回復措置を認めています。
名誉回復措置の具体的手段としては、謝罪広告が一般的です。他に、反論文の掲載を求める手段も考えられますが、これまでのところ、裁判所が反論文の掲載を認めた事例は確認されていません。

(2)謝罪広告の要件
謝罪広告が認められる要件としては、まず、名誉毀損による不法行為が成立していることが挙げられます。この点は、慰謝料を求める場合と同様です。

次に、謝罪広告の必要性が挙げられます。謝罪広告は、名誉回復のための措置であるため、裁判上で認められるためには、事実審の口頭弁論終結時点において回復処分を行う必要性が認められることが求められ、名誉毀損行為後に生じた事情により名誉が回復された場合には必要性が認められないことになります。この必要性の要件は、事案に応じて、個別具体的に検討されることになります。

さらに、名誉回復のために適当な処分であることが挙げられます。原告が求める広告の内容が適当でないと判断される場合、原告の請求の範囲内で適当な処分が命じられることになります。広告の内容や掲載する媒体等の条件は、この要件に照らして検討されることになります。

(3)謝罪広告の内容
謝罪広告の内容は、冒頭に「謝罪広告」等の表題を記載したうえで、本文で、加害者の行った表現が事実に反すること、被害者の名誉を毀損したこと、被害者への謝罪、当事者の氏名、広告作成の年月日が記載されるのが一般的です。

(4)謝罪広告の条件
謝罪広告が命じられる場合、通常、広告を掲載する媒体、掲載場所、文字の大きさ、回数等の条件が定められます。掲載媒体は、多くの場合、名誉毀損の表現が掲載された媒体が指定されます。

ポイント

名誉毀損に対する損害賠償請求以外の民事上の主な救済手段として差止請求と名誉回復措置がある。
差止請求は、明文の規定はないものの、人格権としての名誉権に基づく請求として、一定の要件のもとで認められる。
民法723条は、名誉毀損に対する救済手段として名誉回復措置を定めており、具体的手段としては謝罪広告が一般的である。

次回も、今回に引き続き、名誉毀損に対する損害賠償請求以外の救済方法を取り扱う予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

コラムバックナンバー