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第25回 名誉毀損の救済方法(4)

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回も、前回に引き続いて名誉毀損に対する慰謝料がテーマです。今回は、慰謝料について争われた具体的な事案を見ていきます。

フリージャーナリスト(被控訴人)がホームページ上に「明日の朝刊に折り込む予定になっていたチラシ類を持ち去った。これは窃盗に該当し、刑事告訴の対象になる。」等の記事を掲載したことにつき、新聞社と担当者ら(控訴人)が損害賠償を請求した事案(東京高判平24・8・29判タ1407-99)

被控訴人は、「本件サイト上において本件記載部分が占める割合は、126頁中の2行にすぎず、極めて小さい。また、これが掲載されていたのはわずか24日間であり、一日当たりのアクセス数は重複を含めて500~600件程度にとどまるから、本件記載部分を閲覧した者は数少ない。」等として損害が生じていないと主張しました。

これに対し裁判所は、「本件の名誉毀損は、(中略)刑事告訴の対象となる窃盗に該当する旨を明言するものであること、本件記載部分の内容が、被控訴人が被害者とされるBからの事情聴取という最低限の取材すら行わなかった結果、真実に反するものとなっていること、さらに、インターネット上のウェブサイトへの掲載という深刻な被害を生じさせかねない態様で行われたことからすれば、控訴人Aらは多大な精神的苦痛を受けたと認められ、これに伴う控訴人会社の損害も軽微なものでないということができる。」等と述べ、新聞社について信用毀損による無形損害40万円、担当者らについてそれぞれ20万円の慰謝料を認定しました。

裁判所が慰謝料の算定に当たり、前回のコラムで挙げた様々な要素を考慮していることが読み取れます。また、インターネット上の名誉(信用)毀損について、掲載日数が短く実際の閲覧者が多数でないという事情があっても、慰謝料等が軽微でないと認定されていることが参考になります。

2

月刊誌に、原告について事実と異なる「小菅刑務所に服役中」等の記事が掲載され、原告からの抗議を受けて、謝罪文を送るとともに次号で訂正記事を掲載した事案(東京地判平3・4・23判時1385-91)
原告は、被告による訂正記事掲載等の対応を受けても、なお名誉毀損等に基づく損害500万円が生じていると主張しましたが、裁判所は、「その後速やかになされた本件謝罪文による謝罪及び本件記事と同様の奥書部分に掲載された本件訂正記事によるお詫びと訂正とによって、原告の名誉は回復され、その精神的苦痛も慰謝されたものと認めるのが相当」と述べ、名誉毀損に基づく損害を否定しました(別の事実に基づくプライバシー侵害を認定し、請求一部認容(5万円)。)。

裁判所が、損害発生後の要素として名誉回復の程度を考慮していることが読み取れ、本件では、事後の措置により名誉が完全に回復したとの認定がなされています。

3

有名な俳優(被控訴人)が精神的に変調を来し近隣住民とトラブルを起こしているとの週刊誌記事による慰謝料が争われた事案(東京高判平13・7・5判時1760-93)

こちらは、前回のコラムで500万円の慰謝料が認められたケースとして紹介した事案の控訴審です。出版社(控訴人)は、一審で認められた慰謝料が、過去の事案と比べて過大であると主張しました。

これに対して裁判所は「本件記事等によるその慰謝料額の算定においては、(中略)無形の財産的損害、本件記事等の内容が真実と認めるに足る証拠もなく、取材等も的確でなく、その記事内容が真実であると信ずるに足る相当な事由もないうえ、その表現も被控訴人の人格に対する配慮が見られず、購読意欲を煽り本件週刊誌の売上を上げて利益を図る意図があることが推認されるようなものであること、控訴人が本件記事等を載せた本件週刊誌で相当な利益を揚げていると推認され、多少の損害賠償金の支払では本件のような違法行為の自制が期待されないこと、そして、(中略)本件記事等は従来の緩やかな免責法理に照らして判断しても違法性を阻却することができず、結果として違法性が高いこと、被控訴人が本件記事等に反駁、反論の措置として本件記事等と同程度の伝播効果のある週刊誌や一般新聞紙による名誉回復広告等を掲載してもらおうとすると数百万円以上の費用が掛かることが推認されること」等の事情を挙げ、慰謝料額は1000万円を下らないと判断しました(俳優(被控訴人)側からの控訴がなかったため、裁判所が支払を命じた額は一審の500万円から変更なし)。

本件でも、裁判所は様々な要素を考慮して慰謝料の額を認定していることが分かります。中でも、行為者に関する要素として出版社側の利益を挙げていることが注目されます。

ポイント

インターネット上の名誉毀損の事案で、掲載日数が24日間にとどまる等の事情があっても、慰謝料が認定された事案がある。

名誉毀損による損害が発生した後の謝罪及び訂正記事の掲載により、名誉が回復され精神的苦痛が慰謝されたとして、損害を否定した事案がある。

名誉毀損の行為者に関する要素として、行為者の利益が慰謝料算定の考慮要素として挙げられている事案がある。

次回は、名誉毀損に対する損害賠償請求以外の救済方法を取り扱う予定です。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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