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第2回 売買契約締結後のトラブル(1)

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宅や土地を購入してみたら後から欠陥が見つかった場合、買主としては非常に困ります。このような契約締結後に生じるトラブルに関し、買主の立場でどのような対応が考えられるか、今回から2回に分けて見ていきます。

1購入した物件が売主のものではなかった場合

売主との間で中古の住宅について売買契約を結んで代金の一部を支払ったら、後でその住宅が売主のものではなかったことが分かった場合、そもそも他人のものを売ることはできず契約は無効となるのでしょうか。また、購入した100㎡の土地のうち半分が売主ではない他人の土地だった場合はどうでしょうか。

他人物売買も有効

民法には、他人の物を売買する際の規定が置かれており(民法560条以下)、法律上、他人物売買は有効とされています。売主は、売買の目的となった他人物を自分で取得する義務を負うことになります(民法560条)。

売主が他人物を取得できなかった場合

他人物売買が法律上有効であっても、売主が目的物の取得に失敗した場合、買主は目的物を取得することができなくなります。この場合には、買主は、契約を解除して支払済みの代金の返還を求めることができます。他人物と知らずに契約した場合、借入れを行い利子を払った等、支払った代金のほかに損害が生じていれば、損害賠償も請求できます(民法561条)。
売主から「今は他人名義だが、私が買い取ることが決まっているので問題ない」といった説明があり他人物であることを知って契約した場合、損害賠償の請求はできません。

目的物の一部が他人物の場合

購入した土地の半分が他人物で、売主が取得できなった場合、買主は、売主が所有している半分だけを購入することは可能です。この場合、不足する分に応じて、売買代金の減額を請求することができます(民法563条1項)。
土地の半分だけであれば購入しなかった場合、買主が、契約時に土地の半分が他人物であることを知らなければ、契約を解除して支払済みの代金の返還を求めることが可能です(民法563条2項)。この場合、損害が生じていれば損害賠償請求もできます(民法563条3項)。ただし、請求は事実を知ったときから1年以内にする必要があります(民法564条)。
ただ、売買の目的となる物件が誰のものであるかは、不動産の登記簿謄本を見れば分かります。登記簿謄本は、管轄の法務局に行けば誰でも取得できますし、郵送での手続も可能なので、トラブルが生じないように事前に確認しておくことが何よりも重要です。

2契約で決まっている土地の面積に不足していた場合

売主との間で100㎡の土地を購入するという契約書を交わして代金を支払ったところ、後で測ってみたら90㎡しかなかったという場合、買主は売主に対して何か請求できないでしょうか。

数量指示売買の場合、不足分相当の代金返還請求が可能、場合により契約解除も可能

契約書において面積が明示され、かつ1㎡当たりの代金も明示されていてそれを基準に売買代金が算定されている場合、数量指示売買に当たり、買主は、不足している10平方メートルに相当する代金の減額を請求し、支払済み代金の一部の返還を求めることができます。もし、まだ代金を全額支払っていなかった場合、減額請求した分の代金の支払を免れることができます(民法565条、563条1項)。ただ、契約書に単に公簿面積が記載されているだけの場合、数量指示売買に当たらず代金減額は認められないこととなります。

数量指示売買に当たる場合に、仮に、土地が100㎡あることを前提に建物の建築を計画していて、90㎡では予定した建物が建たない等、90㎡しかない土地であれば契約しなかったという事情がある場合には、契約を解除して支払済みの代金全額の返還を求めることができます(民法565条、563条2項)。

実際の面積の方が大きかった場合

反対に、実際の面積が110㎡あった場合、買主は10㎡分の代金を追加で払う必要があるでしょうか。このようなケースについて、判例によれば、追加の支払は不要とされています。

3抵当権の設定があった場合

住宅を購入してみたら、物件に抵当権が設定されていることが分かった場合、買主はどうすれば良いでしょうか。

抵当権付きの物件を購入する場合、売買の際に抵当権者に対する債務を完済して抵当権を抹消するのが一般的です。しかし、この手続をとらなかった場合、抵当権者としては、仮に債務者から所定の弁済を受けられなかった場合には、物件の所有者が変わっていたとしても、抵当権を実行して競売を申し立てることが可能になります。こうなると、物件の所有権は、競売で競り落とした人に移ってしまいます。

このような事態が生じないようにするために、買主としては、抵当権消滅請求をすることができます(民法379条)。
しかし、この請求をするためには所定の手続に従い、抵当権者への弁済等をする必要があり、また、抵当権者は請求に応じたくない場合には競売申立てをすることが可能です。

買主は、まだ売買代金を支払っていなければ、抵当権消滅請求手続が終わるまで代金の支払を拒むことができますが(民法577条1項)、既に支払ってしまっていたら後で売主に返還するよう請求するほかなくなります。また、競売により他人に取得されてしまった場合には、売主に対する契約解除や損害賠償請求等を行うほかなくなりますが(民法567条)、売主が既にお金を使ってしまっていて資力がない場合には、買主だけが損をすることになりかねません。

なお、抵当権が設定されているかどうかも登記簿謄本を見れば簡単に分かりますので、やはりトラブル防止のためには事前の確認が不可欠です。

ポイント

 購入しようとする物件の権利関係は、
契約前に登記簿謄本を見て
確認しておくことが不可欠

 売主への責任追及の方法は契約解除、
代金減額請求と損害賠償請求

 売主への請求が可能な場合でも、
売主に資力がない場合には
買主だけが損をする事態もありうる

次回のテーマは、今回に引き続き、購入した住宅や土地に様々な欠陥が見つかった売買契約締結後のトラブルについてです。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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