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第17回 名誉毀損の成立阻却事由(2)

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も、前回に引き続き、名誉毀損の成立阻却事由(免責要件)を取り扱います。

前回説明したとおり、民事における名誉毀損(不法行為)に関しては、明文規定はないものの、真実性・相当性の法理により、一定の要件を満たす場合、形式的には名誉毀損に当たる表現であっても名誉毀損に当たらないとされています。今回は、これらのうち真実性の法理を詳しく見ていきます。

真実性の法理とは、①公共の利害に関する事実であること(事実の公共性)、②もっぱら公益を図る目的であること(目的の公益性)、③事実が真実であることが証明されたこと(事実の真実性)の3つの要件を満たした場合には不法行為が成立しないという法理です。それぞれの要件を見ていきます。

公共の利害に関する事実であること(事実の公共性)

公共の利害に関する事実とは、市民が知る権利を持つ事実、すなわち、市民が政治、経済、社会等に関する諸問題について議論、判断するために知る必要のある事実と考えられています。

公共の利害に関する事実にあたるかどうかについては、刑事事件の判例において、「摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべき」(最判昭56・4・16刑集35-3-84「月刊ペン事件」)と述べられており、この考え方は民事の真実性の法理においても同様に当てはまると考えられています。

もっぱら公益を図る目的であること(目的の公益性)

最高裁が挙げた基準によれば、目的の公益性については「もつぱら公益を図る目的」であることとされていますが(最判昭41・6・23民集20-5-1118)、主たる動機が公益を図る目的であればよいという考え方が一般的です。

下級審の判断ですが、裁判例でも「その目的が、公的活動とは無関係な単なる人身攻撃にあるのではなく、それが公益に関係づけられていること」(東京地判昭47・7・12判時688-79)と述べられています。

目的の公益性の判断基準については、主観的要素だけでなく表現方法や状況、根拠資料の有無等の客観的要素も考慮して判断すべきと考えられており、判例も「摘示する際の表現方法や事実調査の程度などは、同条にいわゆる公益目的の有無の認定等に関して考慮されるべき」(上記「月刊ペン事件」判決))としています。

事実が真実であることが証明されたこと(事実の真実性)

(1)証明すべき範囲

真実性の証明の範囲について、その全ての証明が必要とすると報道機関等にとって過大な負担となり、表現の自由の過度の制約になる(全ては証明ができないと考えた場合には報道を躊躇し、有益な情報であっても報道されなくなる)ため適当でないと考えられています。そのため、証明すべき範囲は、摘示された事実の全てではなく、事実の主要部分、重要な部分で足りると考えられています。

判例も、「重要な部分につき真実性の証明があつたとし、したがつて、右告発及び公表がいずれも不法行為とならないとした原審の判断は、正当」(最判昭58・10・20判時1112-44)と述べ、証明すべき範囲は重要な部分で足りるという立場をとっています。

また、主要部分(重要な部分)に当たるかどうかの判断については、大阪高判昭61・11・14判時1223-57が、名誉毀損の判断基準を述べた判例(最判昭31・7・20民集10-8-1059)を引用して「主要部分如何を判断するについては、前文、本文の内容のほか、見出しのレイアウトとその内容、写真の取扱い等を総合的に勘案し、これを一般読者が普通の注意と読み方で読んだ場合の印象を基準としてこれをなすべき」と述べており、名誉毀損該当性の判断基準と同じ「一般読者の普通の注意と読み方」が基準になると考えられています。

(2)証明の程度

民事訴訟一般に、事実の証明には高度の蓋然性が求められますが、真実性の立証においても、同様の考え方がとられています。

(3)判断の基準時

判例は「摘示された事実の重要な部分が真実であるかどうかについては、事実審の口頭弁論終結時において、客観的な判断をすべきであり、その際に名誉毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも当然に許される」(最判平14・1・29判時1778-49)と述べて事実審の口頭弁論終結時を基準としており、裁判手続の中で証明できれば良いとされています。

ポイント

事実の公共性については、市民が知る必要のある事実であるかどうかという観点で事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断される。

目的の公益性については、主たる動機が公益を図る目的であればこの要件を満たすと考えられている。

真実性の証明については、摘示された事実の全てではなく、主要部分、重要な部分についての証明で足りると考えられている。

重要な部分に当たるかどうかは、一般読者の普通の注意と読み方を基準に判断される。

次回は相当性の法理について見ていきます。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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