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第1回 住宅、土地の購入と契約の解消

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宅や土地を購入する際に、売買契約を締結した後、何らかの理由で契約を解消白紙にしたくなることが考えられます。とはいえ、一度契約をしてしまうと、自由に契約を白紙に解消できるわけではありません。では、買主の立場で、どのような場合に契約を白紙に解消することができるのでしょうか。今回は、代表的な例をいくつかみていきたいと思います。なお、購入した住宅等に欠陥があった場合の対応については次回以降、別の回で取扱います。

1誇大広告

「来年には物件のすぐ近くに駅ができて利便性が良くなる」「物件のすぐ近くに大型の公園ができて自然環境が良くなる」といった宅建業者の広告に惹かれて住宅を購入したところ、実際にはそのような計画はなかった場合や、原則として建物の建築ができない市街化調整区域の土地を、宅建業者が「近いうちに大手業者が大規模な宅地開発に着手する」などと謳って販売したところ、虚偽の情報だった場合など、誇大広告によって住宅や土地を購入してしまうケースが考えられます。このような場合に、契約を解消する白紙に戻すことはできないのでしょうか。

(1)詐欺取消(民法96条)、錯誤無効(民法95条)

このようなケースで、買主購入者が、広告内容が誤りであることを知らずに契約した場合には、詐欺による取消や契約の要素(中心的な部分(「要素」)に錯誤があるとして契約の無効を主張することが考えられます。これらの主張が認められれば、代金の支払義務を免れることができ、また、既に支払った金銭(手付金等)があれば返還を求めることができます。
また、場合によっては、消費者契約法4条1項2号の断定的判断の提供に当たるとして、同号を根拠として契約を取り消すことも考えられます。

(2)宅建業法違反による処分

住宅販売に関しては、宅地建物取引業法(宅建業法)において様々な規制がされており、広告に関しては「著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をしてはならない。」という誇大広告の禁止が定められています(同法32条)。
宅建業者がこれに違反した場合、業務停止や、特に悪質な場合等には免許取消の行政処分が科される場合もあります。また、刑事罰が科される場合もあります。

2クーリングオフ

住宅を購入する売買契約を締結したものの、すぐに考え直して気が変わったというケースが考えられます。
このような場合に、買主を保護する制度としてクーリングオフの制度があります。

住宅の購入に関しても、以下の条件を満たす場合には、申込みの撤回や契約の解除ができることとされています(宅建業法37条の2等)。
この場合、売主は買主に対して損害賠償や違約金の請求はできません。住宅の場合特に、個人間の売買に適用がないことや契約した場所の制限があることには注意が必要となります。

  • ① 売主が宅建業者(不動産業者)で、買主が消費者である(宅建業者でない)こと
  • ② 宅建業者の事務所に該当する場所以外の場所で契約が締結されたこと
  • ③ 宅建業者が買主に対してクーリングオフに関する告知をした日から8日以内であること
  • ④ 物件の引渡しおよび代金全部の支払が完了していないこと
  • ⑤ 書面で撤回や解除の意思表示がなされていること

3手付金の放棄

住宅の売買契約においては、しばしば手付金の定めがなされるのが一般的ことがあります。
手付金とは、契約締結の際に、履行の保証として買主が売主に対して一定の金額(売買代金の1~2割程度)を支払うものです。一般に手付金といわれるものには、おおまかに以下の種類があります。

  • ①証約手付金
    契約が成立したことを証するために交付されるもの
  • ②違約手付金
    契約違反があった場合の損害賠償金の予定として交付されるもの
  • ③解約手付金
    契約締結後、契約の履行の着手前に、手付金の金額を放棄すれば契約を解除できることを約するために交付されるもの

このように、手付金はいろいろな意味で交付される可能性がありますが、原則としては、③の解約手付金の性質を持つと考えられています(民法557条1項)。
そのため、買主は、既に支払済の手付金を放棄することで、また、売主は受け取った手付金に同額の金額を上乗せして支払う(手付倍返し)ことで契約を解除できるのが一般的です。
ただし、上で見たように、手付金の性質は多様ですから、手付金について契約でどのように定められているかきちんと確認することが重要です。

また、解約手付金として手付金が交付された場合でも、契約が解除できるのは、当事者のどちらかが契約の履行に着手する前に限られます。 判例によれば、契約の履行の着手とは、買主の場合、代金の全部を支払えるよう用意して売主に引渡の催促をした場合、売主の場合には、登記関係書類を準備して買主に物件の引き取りを催促した場合、契約の履行の着手が認められるとされています。この契約の履行の着手は、契約に定められた代金の支払日より前であっても構わないとされています。

ポイント

 広告内容が誤っていた場合には、
契約の取り消し、無効を主張できる
場合がある
 住宅購入においてもクーリングオフ
できる場合がある
が、
適用される条要件に注意する必要
がある
 解約手付金を支払っていた場合、
一定の期間内に手付金を放棄すれば
契約解除できる

次回のテーマは、購入した住宅や土地に様々な欠陥があった場合の取り扱いです。

原田真 このコラムの執筆者
原田真(ハラダマコト)
一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。
第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか

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