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第19回 タバコと敷金に関するトラブル事例

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「タバコを吸わない」が当たり前になりつつあるが…

2018年7月に健康増進法の一部を改正する法律が成立し、2020年4月1日より全面施行されました。この法律により、望まない受動喫煙を防止するための取り組みは、マナーから法的なルールへと変わります。このような社会の変化もあり、今や喫煙者は多数派ではなく少数派へと徐々に変わってきていますが、未だに賃貸不動産においては、タバコの喫煙を原因とするヤニ汚れの壁紙・クロス張替え費用に関する退去時精算でのトラブルが多く発生しています。

最近では、「タバコを吸うことの何が悪い」というような主張する方はあまりおらず、「タバコを吸ったのだから、黄ばみ、においのついた壁紙・クロスの張替え費用を自分が負担しなければならないのは当たり前」と考える方が多くなっています。しかし、そうした状況にもかかわらず、トラブルが生ずることがあります。

喫煙と原状回復費用の関係

一般的に、壁紙・クロスの経過年数(耐用年数)は6年とされており、6年住んだ場合は、借主が壁紙・クロスの原状回復費用を支払う必要はありません。そのため、仮に3年間住んだ場合は、壁紙・クロスの張替え費用の半額を借主が負担するケースが多くなっています。一方、契約書に「室内でタバコを吸った場合は、壁紙・クロスの張替え費用を借主が負担する」と定められている場合があります。では、入居1日目にタバコを吸い、6年間吸い続けた場合の借主の負担金額はどうなるのでしょうか。

トラブルになってしまうのは「居住した年数に関わらず、タバコを吸った場合は壁紙・クロスの張替え費用を借主が全額負担しなければならない、つまり、仮に6年間住んだとしても、借主が全額負担しなければならない」と貸主側が主張するケースです。このような場合、借主側としては、「どのみち6年間住んで、壁紙・クロスの耐用年数は過ぎたのだから、張替え費用は負担しなくてもよいのではないか。タバコを吸っても吸わなくても、関係がない」と考えてしまいがちです。

「明確な基準がない」はトラブルのタネ

敷金・原状回復に関するトラブル解決の指針となっている国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、「経過年数を超えた物件であっても、借主はなお善管注意義務を負い、貸室に損耗を与えた場合は、例えばクロスを張替える費用(工事費や人件費)などにつき、借主負担となる場合がある」としています。つまり、いかにクロス・壁紙の耐用年数である6年間を経過したとしても、タバコによってクロスや壁紙に黄ばみやにおいが発生した場合(借主の善管注意義務違反の場合)は、借主が張替えに関する費用を負担しなければならない場合がある、としているのです。

しかし、ここでは「借主が壁紙・クロス張替えに関する費用の『全額』を負担しなければならない」とはされていません。そのため、必ずしも借主がどの程度まで負担すべきかについての明確な基準として機能するとはいえず、どうしてもケースバイケースとなってしまいます。こうしたことが、トラブルを引き起こす大きな要因となってしまうのです。

平柳 将人 このコラムの執筆者
平柳 将人(ヒラヤナギ マサト)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手資格取得の専門予備校LEC<東京リーガルマインド>で講師として働きつつ、中央大学法科大学院を卒業。現在、(株)M&Kイノベイティブ・エデュケーション代表取締役のほか、(一社)日本不動産仲裁機構の専務理事兼ADRセンター長を務める。

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