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第10回 カビに関するトラブル事例

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カビが引き起こす健康被害

カビにとって最も快適な環境は気温20度から30度、湿度70%以上であり、この条件下でカビは繁殖し、成長します。温暖で多湿な日本は、カビが成長しやすい条件が世界で最も整っている国の一つなのです。

そして、住宅に生えたカビは暮らす人の健康を害することがあります。カビの健康被害としては一般的に①アレルギーぜん息、②シックハウス症候群、③皮膚炎などが知られており、この健康被害が不動産トラブルを引き起こすことがあります。

中古物件売買後のカビトラブル

不動産会社A社は、以前に売買仲介をした物件の買主B氏より「家がカビだらけになってしまい、住み続けることができない。子供もアレルギーぜん息のような症状を発症し始めている。購入前にはカビが生えるという話は聞いていなかった」というクレームを受けました。

さらに、B氏はA社と売主であるC氏に対し、責任をとってリフォーム工事費用と工事期間中の住まいの賃貸費用、加えて子供の医療費を負担して欲しいと要望しました。

A社の担当者が物件に行ったところ、確かにカビだらけ。玄関から天井、浴室や室内に至るまでカビだらけでした。しかし、A社が以前この物件に住んでいたC氏にトラブルの報告をしたところ、そのように酷くカビが発生したことはないとのことでした。

原因が分かれば、怒りは消える

このトラブルについては、話合いによる解決の場が設けられることになりましたが、話合いと共に行われた現地調査によって、B氏は日常的に清掃や換気等を行っておらず、自らカビが発生する好条件をつくり上げていたことが分かりました。例えば、浴槽に水を張りっぱなしにしていたり、換気をしていなかったり、掃除を怠っていたりしていたのです。

確かに、カビの発生状況が一般的なものであり、建物の構造上の問題が主な要因であれば、その旨を契約の前に伝えておかなかったB社やC氏にも何らかの責任があるとも考えられますが、このケースでは明らかにB氏にその責めが求められるものでした。

なお、B氏は自分自身の行動がカビの原因をつくっているとは気づいていませんでした。結果としては、B氏は自身に責任があることに納得し、A社とC氏に対する要求を取り下げることになりました。B氏によれば、「原因が分かったことで怒りがふっと消え、逆にA社とC氏に対して申しわけなくなった」とのことでした。

まとめにかえて-ADR実施の印象-

日本不動産仲裁機構ADRセンターでは、日々ADR(裁判外での紛争解決)を実施しておりますが、最後に、その中で感じた印象を紹介します。

まず、「相手方に非があり、自分にはまったく非がない」と考えている方は最終的に裁判等を選択されることが多く、他方、「事前に受けた説明をよく理解しないまま『分かりました』と言ってしまった」といったように、「自分自身にも多少の非はある」と考えている方はADRが選択されることが多いということです。

また、ADRという解決方法を選択する方は、「未来志向」であるケースが多いです。

つまり、抱えることになってしまったトラブルを迅速に解決し、新しいスタートをきりたいと考えています。だからこそ、今後の自分自身の人生への影響を最小限にするためにも、相手方との妥協点をうまく見つけ出し、穏便に済ませたいとも思うのです。

なお、実施したADRの和解までに要した期間は平均4か月から半年であり、やはり裁判と比較すると圧倒的に迅速なものとなっています。

平柳 将人 このコラムの執筆者
平柳 将人(ヒラヤナギ マサト)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、大手資格取得の専門予備校LEC<東京リーガルマインド>で講師として働きつつ、中央大学法科大学院を卒業。現在、(株)M&Kイノベイティブ・エデュケーション代表取締役のほか、(一社)日本不動産仲裁機構の専務理事兼ADRセンター長を務める。

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