第55回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(10)


回は、住宅(不動産)の賃貸借に関わる改正の概要を説明しました。今回からは、主要な改正事項について、それぞれ具体的に見ていきます。



賃貸借契約の存続期間

改正前は「20年を超えることができない」とされていた賃貸借契約の存続期間は、「50年を超えることができない」と改正されました(604条1項)。期間の更新を行った場合も同様に、上限が20年から50年に変更されました(同条2項)。)

この点については、現代社会において、長期の賃貸借のニーズがあることから、上限期間の撤廃も議論されましたが、所有権に対する過度の負担を避ける必要があるとの意見も強く、永小作権の存続期間の上限が50年とされていること(278条)等も踏まえ、上限期間の撤廃は見送られ、上限を50年に延ばす形の改正となりました。

長期の賃貸借契約が用いられるケースとしては、太陽光パネル設置用の敷地や、ゴルフ場の敷地等の事業用のニーズが想定されています。

(賃貸借の存続期間)

第604条

1 賃貸借の存続期間は、50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。

2 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から50年を超えることができない。



賃貸借の対抗力

不動産賃貸借の対抗力、賃貸人の地位の移転等については、それまでの判例・通説で確立していた考え方が明文化されました。

すなわち、賃貸借の対抗要件は登記とされ(605条)、賃貸借の対抗力を備えた場合に、その対象不動産が売買等により譲渡された場合には、賃貸人の地位は、譲受人(買主等の新所有者)に移転することとされました(605条の2第1項)。

なお、民法の特則に当たる借地借家法の10条、31条では、それぞれ土地・建物について賃貸借の対抗要件(建物の引き渡し等)が規定されていますので、今回の改正にかかわらず、賃借権の登記がない場合でも対抗要件が備わる場合があることに留意が必要です。

(不動産賃貸借の対抗力)

第605条

不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

(不動産の賃貸人たる地位の移転)

第605条の2

1 前条、借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。

(以下省略)



賃貸人の地位の留保

賃貸借の対象不動産を譲渡する場合に、不動産の譲渡人(旧所有者)及び譲受人(新所有者)が、賃貸人の地位を譲渡人(旧所有者)に留保したい場合、改正前は、賃借人との合意を要することとされていました。これには、手続が煩雑との批判があり、また、賃借人が地位の留保に合意した場合に賃借人の立場が不安定になる(譲渡人(旧所有者)と譲受人(新所有者)との間の法律関係(賃貸借等)が消滅すると、賃借人は譲受人(新所有者)からの明渡請求を拒めない)という問題も指摘されていました。

今回の改正では、譲渡人(旧所有者)と譲受人(新所有者)が、①賃貸人たる地位を譲渡人(旧所有者)に留保する旨と②その不動産を譲受人(新所有者)が譲渡人(旧所有者)に賃貸する旨の合意をしたときには、賃借人との合意を要することなく、賃貸人の地位は譲渡人(旧所有者)に留保されることとされました(605条の2第1項前段)。

この場合に、賃借人の立場が不安定になることを避けるため、賃借人は譲渡人(旧所有者)と譲受人(新所有者)との間の法律関係が消滅した場合には、譲受人(新所有者)との間で賃借人の地位が保たれることとされ、賃借人の保護も図られました(同項後段)。

第605条の2

1 (省略)

2 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する 。

(以下省略)



ポイント

従前、20年を超えることができないとされていた賃貸借契約の存続期間および更新期間は、事業用の長期の賃貸借のニーズ等を踏まえ、50年を超えることができないと改正された。

不動産賃貸借の対抗力、賃貸人の地位の移転等については、従前の判例・通説の考え方が明文化された。

賃貸借の目的の不動産を譲渡の際の賃貸人たる地位を留保に関し、賃借人の同意は不要とされ、他方、賃借人は譲渡人(旧所有者)と譲受人(新所有者)との間の法律関係が消滅しても、賃借人の地位が保たれる(譲受人(新所有者)からの明渡請求を拒める)として賃借人の保護も図られた。



次回も、不動産賃貸借に関する改正の具体的内容を取り扱う予定です。

ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか