第53回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(8)


回まで、売買契約に関わる改正の中心の一つとされている担保責任(契約不適合)の問題を見てきましたが、今回は、売買契約に関わる改正について、これまでに触れていなかった論点を見ていきます。



関連法令との関係

前回まで見てきたように、今回の改正で瑕疵担保責任が契約不適合責任に変更されたことに伴い、関連する内容を含む宅地建物取引業法(40条)、住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下「品確法」と記載します)等の関連法令の改正も行われました。そのため、住宅の売買においては、関連法令の適用の有無および適用される場合にはその内容にも留意する必要があります。

例えば、改正品確法95条3項では、品確法が適用される場合でも、通知期間に関する民法566条が適用されることが明示されていますので、買主が契約不適合(品確法の「瑕疵」)を知った場合には、1年以内に売主に通知する必要があります。

また、品確法が適用されるケースにおいて、同法95条1項は、買主の権利行使の期間を引き渡しから10年間と定めているところ、この権利行使は、裁判外の請求や解除の意思表示でも足りると考えられています。他方、民法166条の消滅時効の定めは、権利行使可能な時(=引き渡し時)から10年以内に裁判上の請求等を行うことを求めており、各規定の要件が一致していない点に留意する必要があります(もっとも、かなり専門的な内容ですので、実際に期間制限の問題が生じた場合には、専門家への相談をお勧めします。)。

住宅の品質確保の促進等に関する法律

(新築住宅の売主の瑕疵担保責任)

第95条

1 新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては、その引渡しの時)から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵について、民法第415条、第541条、第542条、第562条及び第563条に規定する担保の責任を負う。

2(省略)

3 第1項の場合における民法第566条の規定の適用については、同条中「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない」とあるのは「住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成11年法律第81号)第95条第1項に規定する瑕疵がある」と、「不適合」とあるのは「瑕疵」とする。

民法

(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)

第566条

売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

(債権等の消滅時効)

第166条

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 (省略)

二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。



担保責任を負わない特約

担保責任を負わない特約について定める改正民法572条は、改正に伴う若干の文言の修正はあったものの、内容は改正前のものが維持されました。したがって、「知りながら告げなかった事実」等の同条の定める例外を除き、特約は原則有効ということになります。

ただし、消費者契約法が適用される場合(売主が事業者で買主が消費者)や、宅地建物取引業法が適用される取引においては、特約は無効となると考えられますので、関連法令の適用有無に留意が必要です。

(担保責任を負わない旨の特約)

第572条

売主は、第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

宅地建物取引業法

(担保責任についての特約の制限)

第40条

1 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治29年法律第89号)第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。

2 前項の規定に反する特約は、無効とする。



ポイント

瑕疵担保責任が契約不適合責任に変更されたことに伴い、関連法令の改正も行われたため、関連法令の適用有無やその内容にも留意する必要がある。

売買契約における担保責任を負わない旨の特約については、法改正に伴う文言の修正は行われたものの、改正前の内容が維持された。



次回からは、不動産賃貸借に関する問題を取り扱う予定です。

ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか