第51回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(6)


回も前回に引き続き、売買契約に関わる改正の中心の一つとされている担保責任(契約不適合)の問題をみていきます。今回も、前回に引き続き契約不適合に対する買主の救済手段を取り扱います。今回は損害賠償請求権と解除権を具体的に見ていきます。



(契約不適合に対する買主の救済手段~続き~)

損害賠償請求権

改正前の民法の瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任においては、売主は無過失責任を負うと理解されていました。

改正法では、契約不適合責任が債務不履行責任と整理されたことにより、損害賠償請求に関し、契約一般に関する債務不履行に基づく損害賠償について定めた415条の適用があることが確認的に規定されました(564条)。

改正法の415条では「債務者の責に帰することができない事由」(免責事由)がある場合には、損害賠償責任は否定されるとされています(同条ただし書)。この点は、前回触れた、売主の帰責事由を要件としない代金減額請求権と異なることになります。

なお、今回の改正により、損害賠償請求に売主の帰責事由が必要とされたものの、実務上、免責事由が認められるケースは多くないことから、損害賠償請求が認められるケースについて、改正前と大きな変化は生じないと考えられています。

また、損害賠償の範囲について、改正前民法では、瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任の範囲は「信頼利益」とされていました。これに対し、改正法では、一般の債務不履行に基づく規定が適用されるため、その範囲は「履行利益」とされます。

この点で、改正前に比べ、概念上は賠償の範囲が拡大されたと考えられますが、改正によって、実際にこれまでよりも広く賠償が認められるかどうは、事例の積み重ねをみる必要があると思われます。

(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第564条 前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 (省略)



解除

改正法では、契約不適合責任が債務不履行責任と整理されたことにより、解除に関しても、契約一般に関する債務不履行に基づく解除を定めた541条、542条の適用があることが確認的に定められました(564条)。

改正前民法で解除が認められるのは目的不達成の場合に限られていたところ(改正前570条が準用する改正前566条)、改正法では、解除に関する一般規定が適用されるため、こうした限定はなくなったこととなります。

このため、催告解除を定める541条が適用される場面では、契約目的不達成は要件とされておらず、債務不履行の程度がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときに解除できないこととされるにとどまっています(同条ただし書)。

なお、どのような契約不適合が「軽微」と評価されるかは条文のみから判断することはできず、具体的な事例の積み重ねを見ていく必要があると思われます。

(催告による解除)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

(催告によらない解除)
第542条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
(以下省略)



ポイント

今回の法改正により目的物の契約不適合に基づく損害賠償責任は、債務不履行による損害賠償責任、解除は債務不履行による解除と整理された。

上記により、契約不適合に基づく損害賠償請求や解除について、債務不履行に基づく損害賠償の規定(415条)、解除の規定(541条、542条)の適用があることが確認的に定められた(564条)。



次回は、契約不適合に関するその他の論点をみていく予定です。

ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか