第50回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(5)


回も前回に引き続き、売買契約に関わる改正の中心の一つとされている担保責任(契約不適合)の問題をみていきます。今回も、前回に引き続き契約不適合に対する買主の救済手段を取り扱います。今回は追完請求権と代金減額請求を具体的に見ていきます。



追完請求権(562条)

改正民法では、売主が引き渡した目的物に契約不適合がある場合、不完全履行となり、買主は売主に対し、追完請求(代替物または不足分の引渡請求および修補請求)が可能となります(562条1項)。ただし、契約不適合が、買主の帰責事由による場合には、追完請求は認められません(同条2項)。

追完請求について、複数の方法が考えられる場合、どの方法で請求するかは、買主が選択することができます。ただし、追完にかかる売主の負担を考慮して、「買主に不相当な負担を課するものでないとき」には、売主は、買主の請求と異なる方法による履行の追完ができることとされました(562条1項ただし書)。この「不相当な負担」は、今回の改正で導入された概念であり、具体的にどのような場合が「不相当な負担」に当たるのかについては、今後の解釈や事案の積み重ねによって判断されると思われます。

なお、追完請求権や次項で扱う代金減額請求権は、権利に関する契約不適合の場合も同様の取り扱いとされています(565条)。

(買主の追完請求権)

第562条

1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。



代金減額請求権(563条)

改正前の民法では、買主が代金減額請求ができる場合を、原始的一部不能(改正前563条)と数量指示売買(同565条)に限定していました。しかし、売買目的物の価値が対価と見合わない場合には、広く代金減額請求を認めるべきとの考えから、改正民法では、売買一般について、契約不適合に対する代金減額請求を認めることとしました(563条)。契約不適合が、買主の帰責事由による場合には請求が認められない点は、追完請求と同様です(同条3項)。

この代金減額請求には、売主の帰責事由は不要とされており、この点で、次回取り扱う予定の損害賠償請求と異なります。

また、代金減額請求は、契約の一部解除のような性質を有することから、契約解除と同様に、原則として追完の催告を行うことが権利行使の要件とされています(563条1項)。また、契約解除に関する無催告解除(改正法542条)と同様、例外的に催告が不要とされる場合について、同条2項が規定しています。

代金減額請求権は契約の一部解除のような性質を有するため、代金減額請求権を行使した場合、合わせて契約の全部や一部の解除を行うことはできないと考えられています。

(買主の代金減額請求権)

第563条

1 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。

 一 履行の追完が不能であるとき。

 二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。

 三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。

 四 前3号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

3 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。



ポイント

売買の目的物や権利に契約不適合があった場合、契約不適合が、買主の帰責事由による場合を除き、買主は売主に対し、追完請求(代替物または不足分の引渡請求および修補請求)を行うことができる。

追完請求を受けた売主は、「買主に不相当な負担を課するものでないとき」には、買主の請求と異なる方法による履行の追完ができる。

売買の目的物や権利に契約不適合があった場合、契約不適合が、買主の帰責事由による場合を除き、買主は売主に対し、代金減額請求を行うことができる。

代金減額請求には、損害賠償請求と異なり、売主の帰責事由は要件とされていない。



次回は、今回に引き続き、契約不適合に対する救済手段について、損害賠償請求権や解除権を中心に、具体的に見ていく予定です。

ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか