第49回 住宅(不動産)にかかわる民法改正の概要(4)


回も前回に引き続き、売買契約に関わる改正の中心の一つとされている担保責任(契約不適合)の問題をみていきます。今回は、契約不適合に対する買主の救済手段を取り扱います。



改正前の規定

改正前の担保責任に関する規定では、損害賠償請求や契約解除などの救済手段について、担保責任の各場面において、個別に規定されていました。そのため、例えば代金減額請求権については、権利の一部の移転不能や数量不足の場合(改正前563条、565条)に限って規定されるなど、担保責任の類型ごとに、救済手段やその要件が異なっていました。

また、瑕疵の修補や代替物の引渡しのような履行追完請求に関しては、請負契約では明文規定がありましたが(改正前634条)、売買契約には明文規定が置かれていないといった不統一も見られました。



改正法の概要

今般改正された民法における買主の救済については、まず、物に関する契約不適合を理由とする買主の救済手段として、追完請求権(562条)、代金減額請求権(563条)、損害賠償請求権および解除権(564条)の規定が置かれました。

そして、これらの各救済手段は、権利に関する契約不適合の場合に準用することとされました(565条)。

このように、改正法においては、物の契約不適合か権利の契約不適合かを問わず、契約不適合の場合の買主の救済手段について、同一の規定が適用されることとされました。

ただし、権利の契約不適合に関する565条では、権利の一部が他人に属する場合についても権利の契約不適合の場合と同様の扱いとされますが、権利の全部が他人に属する場合については対象外となる点に留意する必要があります(同条ただし書)。これは、改正法の562条から564条までの規定が、物や権利に関する契約不適合という「不完全履行」の場合を想定しており、「無履行」の場合は想定していないためです。

したがって、権利の全部が他人に属する場合のような無履行の場合には、契約不適合の対象から外れ、債務不履行に関する一般規定によって処理されることになります。



(買主の追完請求権)

第562条

1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。(省略)

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

(買主の代金減額請求権)

第563条

1 前条第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。

 一 履行の追完が不能であるとき。

 二~四(省略)

3 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)

第564条

前2条の規定は、第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。

(移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任)

第565条

前3条の規定は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む。)について準用する。



ポイント

改正前の担保責任に関する規定では、損害賠償請求や契約解除などの救済手段について、担保責任の各場面において個別に規定されており、その手段や要件が異なっていた。

改正法においては、物に関する契約不適合を理由とする買主の救済手段として、追完請求権(562条)、代金減額請求権(563条)、損害賠償請求権および解除権(564条)の規定が置かれ、これらは権利に関する契約不適合についても準用された(565条)。

上記の改正により、改正法においては、物と権利の契約不適合について、救済手段が統一された。


ABOUTこの記事をかいた人

一橋大学経済学部卒。株式会社村田製作所企画部等で実務経験を積み、一橋大学法科大学院、東京丸の内法律事務所を経て、2015年にアクセス総合法律事務所を開所。 第二東京弁護士会所属。東京三弁護士会多摩支部子どもの権利に関する委員会副委員長、同高齢者・障害者の権利に関する委員会副委員長ほか